第4話

こんなとこ、あったか?


知ってるはずの外の世界。

全然知らない景色が広がっていた。

振り返っても知らない景色。

おっと、妖精の悪戯か。


どうしたもんかと辺りを見回す。

こんな時、ハヤトが居てくれたら。


また、想ってしまって、泣けてきた。

うん。

未練がましいとは思うけど、好きなんだよ。

まだ。

すごく好きなんだ。

あー。

泣けてきた。


泣いてる場合じゃないから、鼻水をすすりながら突破口を求めて歩き出す。


「…えー森ー森かよー…」


少し歩くと森が現れる。

さすがに飛び込むのは、と躊躇う俺に霧が襲い掛かる。

後ろも、森になっていた。

妖精の悪戯、ではないな。


俺は、息をひとつ吐き出し森の中へ。

攻撃出来ない奴が独りで森とか、死亡フラグ。

なのに、奇妙なことに、この森が怖くなかった。


未開の森っぽいのに、俺を導くように道が伸びる。

草木分けられ、歩きやすい石畳が、出来ていく。

なんだろ。

なんだ。

すごく、胸がどきどきする。


急がないといけない気がした。

そうしたら走り出していた。

遅いのに。

懸命に駆けていた。


「あっ」


そこに繋がる道だった。

森に囲まれた広場。

中心にひとが。

真っ黒い大きな剣で胸を貫かれ、倒れ伏すこともできず天を仰いだままになってるひとが。


ハヤトが剣に串刺しにされていた。


「ハヤト!」


自分でも驚くほど、でかい声が出た。

俺こんなでかい絶叫出せるのか。

後で声枯れそ。

慌てる自分と反対に、冷静な自分が居た。


「ハヤトっ!はやとぉ!なんでっこんなっ!」


すぐさまハヤトに駆け寄って、躓き身体に追突してしまう。

だけどハヤトは応えない。

虚ろな瞳で天を仰いだままだ。


「ハヤトぉハヤトっ!嫌だ!やだぁ!」


俺はハヤトのボロボロな装備引っ掴んで、揺らしまくった。

冷たくて固い身体だった。

どうしようもないことが、分かって、悲しくて、辛かった。


『問おう』


『其れを救いたいか?』


『差し出せるか?』


『ようやく得たものを』


『これからの栄光の初手を』


森の奥から男とも女ともつかぬ声が聞こえた。

それは俺に問いかけていた。

栄光の、初手?

ようやく得た?

意味わからん。

意味わからんが、差し出したら、救えるのか?


『救える』


俺の心の声を聞いたのか即答される。

じゃあ俺も即答する。

一刻も早く、救いたい。


「なんでも差し出すから、なんでも差し出しますから、どうかハヤトを救って下さい」


一瞬の沈黙の後、鐘が鳴る。

神々しい、鐘だった。


『福音はもたらされた。汝に祝福の鐘を』

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