第2話

足手纏い。

そういうのは感じていた。

俺には戦闘の才能がなかった。

天職は採取者だった。

スキルツリーの何処を見ても、攻撃補正的なものはなかった。

悩んださ。

そりゃ、悩んだ。

でも、ハヤトが気にしてなかったから。

じゃあ、ハヤトを精一杯フォローしようって。

そう思って。

頑張ってきたつもりだった。


俺たちは、その日高校に居た全員纏めて異世界へ転移してしまった。

異世界ではよく、こうやって転移してくる集団がいるので、受け入れは容易く優しかった。

ついでに優秀な天職を持つ者が多いので、生活地盤築くまでの扱いは手厚かった。

異世界での生活知識もちゃんと教えてくれたし、親切なひとも多かった。

それでも、最初はてんやわんやだった。

怖くてたまらなかった。

帰れない恐怖が、強かった。

でも生きていかないといけないから。

俺たちは異世界に馴染んで生きてこってなってった。


ハヤトは元々優秀で超出来るスパダリだったから、異世界に来ても不変だった。

天職は魔法剣士で、万能な貴重職だった。

そうだよな。

魔法もそつなく使いこなして、前衛も出来るなんて。

俺のスパダリはすげぇなぁって思った。

だからこそ、俺は、支えようって奮戦してた。

頑張った、つもりだったんだけど。


ある日、まぁまぁ仲良かったからパーティー組んでたクラスメイトの奴らがハヤトに、


「あいつはお荷物だ」


って言ってるを聞いてしまった。

ハヤトに言われるのならともかくとして、お前らなぁって思っていたら、ハヤトが、


「…そうだな」


って応えてた。


ぼそぼそってその前と後なんか言ってたけど、その肯定ばかりが耳に残った。


恋人だから。

少しは。

かばって貰えるって。

思ってた俺が馬鹿でした。


俺はその日の内にパーティーを抜けることにした。

ついでにハヤトに別れようって話をした。

ハヤトは少し驚いた顔をしていたけど「わかった」と言った。


俺たちって、実は付き合ってなかったのかも。

別れた日からずっとそんな考えばっかりしてる。

俺が個人的にお世話になっていた薬屋さんトコで住み込みでバイトして食いつないでる間、ずっとそんなこと考えてた。

たまには外で仕事してこいって蹴り出されたのが今日で。

気晴らししてこいって意味なんだろうけど。

さぁ。


「そうだなって、わかったって…もう少し言葉あるだろ…」


ハヤトは素っ気ない口調も恰好良いスパダリだった。

だからいいんだけどさぁ。

もう少しさぁ。


とぼとぼ歩きながら、ハヤトのことばかり考える。

この世界に来てからもう数年経ってるけど。

他の連中は結婚したり色々してるみたいだし。

ハヤトなんてもう雲の上の存在な一流の戦士になってしまって。


独りだなぁ、って実感した。


「…て、おばあちゃん!なんつー荷物をっ」


感傷に浸っていた俺の横を、もの凄い荷物を背負ったおばあちゃんが通り過ぎて行った。

その荷物量は無いわぁ。

追おうとした俺の動作の遅さ、こういう時恨めしい。

よろよろしてたおばあちゃんは、ドテンと転んでしまった。


「遅かった!ごめんおばあちゃんっ!大丈夫?」


ようやく追いつきおばあちゃんの安否を確認する。

人の良さそうなおばあちゃんが「あらあら、ありがとねぇ」ニッコリ笑ってくれた。


「笑ってないで痛いとこは?あーもー泥だらけだよー、荷物は一回下ろして…はい立って…俺の肩に手ぇついてて……よし、綺麗になった」


汚れをなんでも落とす機能が付いた手拭いで、おばあちゃんの服についた泥を落す。

俺こういう高機能なもの作るの得意なんだよ。

…戦闘で役立たないからいらねってよく言われたけど、ハヤトは喜んで使ってくれてた。


「綺麗な着物だねおばあちゃん。この大荷物は何処に運ぶの?手伝うよ」


「あらあらありがとねぇ。それじゃあお願いしますねぇ」


おばあちゃんは穏やかに笑って「こっちですよぉ」と歩き始めた。

俺はちょっと我慢して、なんとかおばあちゃんの後に着いていった。

そういえば、俺、筋力そんなになかった。

中肉背高なだけで、怪力ではないんですよく勘違いされますハヤトのほうが強いんです。

そんなことを考えつつ、なんとかおばあちゃんの家に辿り着いた時、俺の全身は死んでいた。

この後仕事、出来るか不安になってくる。


「ありがとねぇ、これと、これを、貴方に差し上げるわねぇ」


「わ、ありがとうおばあちゃん。…あー冷たくて美味しい…」


一端家の中に引っ込んだおばあちゃんが、飲み物と小さな包みを俺にくれた。

喉が渇いていたので一気飲みする俺に、おばあちゃんがにこにこーって笑って、消えた。


「え」


というか、おばあちゃんの家ごと消えた。

さっきまであった家と、違う家の前に俺居る。


「…もしかして、妖精の悪戯?」


この世界では、時々妖精に悪戯されることがある。

俺は結構されまくっていた。

何度も悪戯されまくってる。

道に迷わされた時と感覚が似ているから、間違いない。

でも、何かを貰ったのは初めてだ。


…今までのお詫びってやつかな。


よく見たら飲み物の器、すっごい綺麗だ。

これは嬉しい。

アイテムボックスに仕舞っておこう。

こっちの世界の常識、固有容量千差万別異空間収納、アイテムボックスに俺はコップを仕舞った。

俺の収納スペースは押し入れぐらい。

ハヤトの収納スペースは無限大。


「あ、も一個もらってたか…うん?これは飴?」


包みから出すと、それは大玉の虹色の飴だった。

綺麗だな。

甘そうだな。

妖精がくれたってことなら、きっと甘いに違いない。


「あーん……ん?甘くないな…変な飴だな…って、やべっ、仕事仕事っっんぐぃぅううっ」


はっと気づいた拍子に飴を飲んでしまったが、まぁ大丈夫だろう。

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