大器晩成うすのろ彼氏

第1話

とんまウスノロうどの大木。

それが俺の二つ名だ。

まぁ本当のことだし、反論の余地はない。

どうも素早く動くってのができない。

昔っから鈍くさいどんくさいって言われていた。

だから、こっちに来ても言われてしまうのは、しょうがないって思っていた。

でも俺にだって得意なことはある訳で、俺はそれで役立ってるって、そう思ってたんだ。

俺には最高の恋人がいる。

めちゃくちゃ最高の。

とびっきり美人…いや美形…イケメンの。

幼馴染のイケメンに、思春期真っただ中、誰にも盗られたくないっていう理由で俺は告白した。

同性相手、半ば玉砕覚悟だった。

気持ち悪がられることも、避けられることも、嫌われる未来も想定してた。

でも告白しとかないと後悔するって思った。

ハヤトは俺の告白に「うん」って頷いてくれた。

うんって。

頬をピンクに染めて。

俺の手をとって。

微笑んで。

はじめてみたその笑顔は、今も俺の脳裏に焼き付いている。

「…はぁ…手持ち少な…やばいよなぁ…」

とってもらえた手で開いた、財布の中身に泣きそうになる。

めっちゃ少ない。

何故ならこの間使ったから。

「はぁ…」

溜息吐いたところでお金は増えない。

気を取り直して、俺は冒険者ギルドのドアを開けた。

少し遅い時間なので、中の人はまばらだ。

あえて遅く来た甲斐があったな。

俺は今日から何をしようかな、とクエストボードを確認する。

その隅に、俺が元居たパーティが二つも昇格したってお知らせが貼ってあった。

被害妄想に囚われそうだ。

俺はなんてことないを装いながら、無難な薬草採取のクエストを発行してもらい、足早にギルドを後にした。

心無しか職員の人の視線が優しかったのは、気のせいだ。