第二話 2人目のお客様

 それから不思議な事が続いた。


 Message が届いた。

「私の為に言葉を売って下さい。」

 昨日の男を思い出した。

 言葉は売っていない。

 なのに、買いたいと言ってきているのだ。


「言葉売りはしておりませんが?」

 Message を返すと、返信が届いた。


「友人のところに訪れたら、そこに言葉が飾ってあった。友人は甚く気に入っていた様だった。どうか、私の為に、あなたの言葉を売って欲しい。」


 あまりにも不思議な話なので、

 いぶかしんだが

 最近の奇妙な現象も知りたい。

 話をすることにした。


「なぜ私に言葉を売って欲しいというのですか?」


「友達はたまたま出会った人と話をした。

 そしたら、その言葉が気になって気になって、その言葉が剥がれ落ちなくなった。

 だから、言葉を発したその人に会って、『売ってくれないか?』 と、お願いして買ってきたと言うのです。」


「彼は言葉を飾り、毎日その言葉を見ては、幸せそうにしているのです。」


「その光景を見て、私も無性に欲しくなりました。」


 謎を解く為に進めた話が、さらに謎を作ってしまった。


 飾られている言葉は何と書かれています?


「‘’歳をとると血を手繰り寄せたくなる。

 母の血、祖父の血

 母の生きた思い出に触れ、

 試したくなる。

 母の自慢したこの場所

 母が嫌がったこの場所

 祖父が生きたこの場所


 母は嫌がっていた様で、

 本当はこの場所が好きだったのでは?


 素直になれば良いのに。‘’」


「でした。」


 私の脳裏いっぱいに広がった景色は、

 山々に囲まれ目の前には

 青く美しく広がる山、

 そして、その下には緑に広がる湖、

(正しくはダム)


 私は、ダムの天端から見える景色を見ていた。

 今見える景色と、子供の頃、母方の祖父に連れられて来たダムのお祭りの景色だ。

 魚のつかみ取り、ヨーヨーの屋台、かき氷。

 行き交う人々。

 祖父の顔、母との会話。


「それを、書いて、飾っているのですか?」

「そうです。彼はその言葉を甚く気に入って

 毎日眺めているのです。」


 言葉にならなかった。

 彼の欲しがった言葉を聞いて、

 そうかと頷けもせず、

 そして、それを音の言葉として、発してもいなかったのだ。

 誰もいない。。。

 ただ、母の育った生まれ故郷で

 祖父が産まれ生きたその場所で、

 懐かしんで想っただけの言葉だった。


 あの時彼に貰ったお札は手元にあり

 Messageは届いているのだ。


 不思議としか言いようがない。


「私は言葉をその時発していないですよ?」


「いへいへ、そんなことは無いと思います。」


「頭の中で思っただけで、、、。」


(そうか、思考の電磁波を彼は受け取ったということか!?)


 「そうです。その通りですね。」

 「あなたは、我々の言葉を受け取れる。

 我々の思いを受け取れる。

 めずらしい人。

 人は、、。

 多くの人は、人と言葉で思いを交わす。

 あなたは、我々の思いや言葉も受け取れ  る。

 彼は、それを確かめる為にも、あなたのところに行ったのでしょう。

 そして、その証に、お札を手渡した。」


 「、、、。」


 「そして、私は、あなたにどの言葉を売れば良いのでしょうか?」


 「あなたが行って感じた思った事

 それが私に伝わる。

 私が気に入ったら、そしたらまた

 私があなたに報酬を支払いましょう。」


 「今日は私の意を伝えにMessageを送りました。」

 「あなたは我々と人を繋ぐ仕事をして欲しのです。」


 「もし、私が彼やあなたと話したいとしたら?」


 「思って下さい。」

 「我々は、受け取れます。」

 「そして、あなたは受け取れるでしょう。」

 「彼があなたに会いに行ったもう一つの理由は、

 あなたは、随分と昔から、我々の会話を聞いていた。それを確かめる為に、彼はあなたに会いに行ったのです。」

 「彼は、あなたを必要としている。

 そして、あなたも我々と必要としているでしょう。」


 「もし私が、あなた達に会いたいと思ったら?姿、形を見たいと。。。」


 「彼も私も、いつも存在しています。

 ただ、あなたが認識するか?

 しないかです。」


 「彼や私があなたに存在を確認して欲しくなったら、、。

 その時は、呼びます。

 その時は、アピールします。

 あなたは何故か気になって、目を留めるでしょう。

 そして、我々に気付く。」


 「我々は、秘密主義者でもありませんが、

 自己主張が強いわけでもありません。

 ただ、あなたが我々を必要としたならば。。。

 もし、あなたが我々を意識したならば、

 あなたは私の存在をすぐに確認するでしょう。

 我々はあなた方とは違う存在ですから。

 我々は、ただそこに存在するだけ。」

 

 2人目のお客様とのMessage のやり取りは、そこで終わった。


 謎は謎のまま。

 それでも、今は良いと。


 お茶を飲むことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る