ことば屋

一粒

第一話 あなたの言葉売って下さい。

ある時、戸が鳴った。

「トントン」


戸をあけると、男が立っていた。


「昨日、あなたと出逢い言葉を交わしたものだが、

言葉を売って欲しい。」


目の前の男は真剣な顔をしている。

が、いったい何の事を言っているのか

分からない。


「何を?」


「昨日、あなたが私にかけてくれた言葉です。」


(奇妙な事を言う者もおるものだ)


「昨日、私があなたに何を話したのかは、覚えていません。」

「私があなたに対して発した言葉であるのであれば、どうぞ

お気にせず頂いて下さって大丈夫です。」


そう言葉にすると、彼は

「ありがとう。」


その言葉とともに私の手を握った。

彼が離した私の掌には、一枚のお札が残されていた。


「昨日の言葉、書いて私のいつもいる場所に飾るよ。」

「毎日目にして大事にする。」


そう言って、彼は立ち去った。


いったい何の事だかさっぱり分からない。

昨日、誰かと出逢ったのだろうか?

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