「結晶化 / 流動的」

「今日はカレーライスよ」と、お母さんはこちらを見ずに、包丁でなにかを切りながら言った。わたしはべつにカレーライスが好きなわけではないのだけれど、この決まり文句は肯定的な意味を持ってしまっている。言い換えるなら、有無を言わさずに「わーい」とでもはしゃがなければいけないような決まり文句なのだ。


 結晶化したイメージというもの。それをハンマーで砕いてしまおうと思っても、無数の手が、その革命家の首を絞め、手首をしぼり、口をふさぎ……ひどい目にあわせてくる。――――「そうなんだ」と言うと、「そうなのよ」とお母さんは返してきた。それ以上の会話は生まれなかった。


 家族。家族関係。家族の絆。それは結晶化しえない。流動的なもの。言い換えるなら、粘土のようなもの。粘土。高尚なものを作れるような素材ではない。家族、家族関係、家族の絆。それはペルシア絨毯のようなものではない。家族は粘土。それでいいのだ。

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