第17話
『オールグリード エピティア支部』のギルド昇格後のクエストは、冒険者史上でも類を見ないほどの大失敗に終わった。
ポイテルはモエルドリからリンチされ、戦士トリオは村人たちからリンチに。
そして4人とも捕まり、衛兵に突き出されてしまった。
冒険者がクエストを行なった際に近隣住民に被害を与えた場合などは、ある程度であればギルド協会のほうでサポートされる。
しかしそれはあくまで、強大なるモンスターと戦った際、不可抗力として起こってしまった事故に対してのみ。
中型モンスターの中では雑魚とされているモエルドリを相手にしたうえに、逃げ回って被害を拡大させてしまったとあれば、ただの身の丈に合わない者たちの失態でしかない。
サポートは受けられず、オールグリードには多額の賠償金が請求された。
このことはもちろん、絶対勇者デザイアンの耳にも入る。
これほどの大失敗であれば、もはや殺されてもおかしくはない。
しかしポイテルはあきらめなかった。
彼はなんと、市販の『モエルドリの火打ち石』を探し求め、クエスト達成の品として納品することを考えたのだ。
ポイテルはせめて、フォーチュンクッキーのクエスト達成を妨害できればと思っていた。
デザイアンの処罰はもはや避けられぬ身であったが、そうすれば首の皮一枚くらいは残すことができるかもしれない。
しかし、これにはさらなるリスクを背負うことになる。
ひとつ目は市販品ともなると、依頼料の数倍の値段となる。
それも低品質な石ではかえって恥さらしになるので、高品質なものでなくてはならない。
いち個人が支払うには厳しい金額を、持ち出しにしなくてはならなかった。
そしてもうひとつは、買ったものを納品したことがバレたら、いい笑い者になるということ。
クエストの納品物をどうやって入手するかについては、特に取り決めがない。
盗むなどはもちろん論外であるが、買って納品するのはオンルールであった。
しかしこれは冒険者としては恥ずべき行為とされているので、もしバレてしまったらギルドの評判はさらに落ちてしまうであろう。
ポイテルは悩んだが、ついに苦渋の選択をする。
知り合いの鑑定人の闇ルートを通じ、購入してしまったのだ。
Aランクの『モエルドリの火打ち石』を。
お値段、3000万
借金をしてしまったが、オールグリードに残ることさえできれば、そのくらいすぐに返せるであろうと見込んでのことである。
とうわけで、クエストの期限内にフォーチュンクッキーとオールグリード、両者のギルドがクエスト達成の扱いとなった。
この場合、依頼主がどちらの納品物を受け取るかは自由なのだが、多くの場合、『鑑定会』と呼ばれる鑑定会が行なわれる。
これは鑑定士を呼び、両者の納品物を見定めてもらい、その結果により選ぶというものであった。
そして今回の場合も『鑑定会』による判定が採用される。
場所はエピティアの街にある、小さな公民館。
そこにオールグリードの代表者と、フォーチュンクッキーの代表者が、納品物を持ち寄った。
オールグリード側の参加者は、ポイテルと戦士トリオのみ。
オールグリードのギルドメンバーというのは、他のメンバーのクエストに興味がない。
今回の場合は失敗同然のクエストだったのでなおさらであった。
参加者として同行したが最後、あらぬとばっちりを受けるのを怖れていたのだ。
対するフォーチュンクッキー側は、ジャック以外のギルドメンバーが全員参加。
彼らはもはや、ひとつの大家族のようであった。
「それでは鑑定会を始めたいと思います。今回は『炎上鳥モエルドリ』についての鑑定となります。
それではまず、オールグリードの納品物からまいりましょう。
代表者の方は、納品物を鑑定台の上に乗せてください」
司会進行役から言われ、ポイテルは紫色の布に包まれた石をもって壇上にあがる。
『鑑定台』と呼ばれる、これからオークションにかけるような台の上に、石を置いた。
「クエスト報告書によりますと、こちらの石は、ウィサー森林で採取されたものです」と鑑定人。
それはバニラとチョコを混ぜたような、薄茶色のクリーム色をしていた。
その鈍く光沢を放つ石に、見物人たちから「おお……!」と感嘆の声があがる。
「なんと美しい『火打ち石』だ……! 傷がほとんどないぞ……!」
「あれはおそらく戦闘中に、2回……いや、1回くらいしか使わせなかったに違いない!」
「市場に出れば、2000万
ちなみにではあるが、ポイテルはこの石を闇ルートで買った。
足が付かないようにするためと、とある『サポート』を得るためであるが、そのため一般市場の価格よりはだいぶ割高になっている。
その下馬評どおり、石を鑑定した鑑定人からは、こう告げられた。
「素晴らしい。これほど高品質な石は、滅多にお目にかかれません。
さすがは世界一のギルド、オールグリードが手がけたクエストだけあります。
そしてそれ以上に、剥ぎ取り師が素晴らしい腕なのでしょう…。
この石は文句なしの、Aランクです!」
沸き起こる歓声と拍手に、得意満面で手を振り返すポイテル。
拍手が終わるのを待って、鑑定人は告げた。
「さて、次はフォーチュンクッキーの納品物ですが、こちらは木片級になったばかりの弱小ギルドです。
階級からいって、モエルドリを倒すのもやっとだったことでしょう。
ですから、もはやそちらは鑑定する必要もないと判断します。
依頼人、このまま決定してください」
依頼人席に座っていた身なりのいい男は、「たしかに」と頷いたあと立ち上がる。
フォーチュンクッキー側の参加者たちは「ええっ!?」と悲鳴のような声をあげた。
「ま……待ってください! こちらはもっと高品質な石をお持ちしました!」
と、オネスコが手を挙げて発言する。
鑑定人は肩をすくめた。
「そんなわけはないでしょう。
Aランク以上となると、百年に一度の最高品質となります。
見たところ、そちらのギルドには剥ぎ取り師すらいないではないですか
素人の剥ぎ取りではCランクどころか、Eランクが関の山でしょう」
「いえ、フォーチュンクッキーには剥ぎ取り師がいます!
今回の石も、その人が剥ぎ取ったものです!
だらしない人なので、今日ここにはいませんけど……!」
鑑定人は小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「ふふん、だらしない剥ぎ取り師が剥ぎ取るものなんて、たかが知れています。
きっとその人は、負けるのがわかっていたから、来ていないのではないのですか?」
見物客から「どっ!」と笑い声がおこる。
「ちがいますっ!」と、フォーチュンクッキーの全員が怒鳴り、場は静まり返った。
「ジャックさんはだらしない人で、いつもお酒を飲んでて……!
いい加減でどうしようもなくて、本当にろくでもない人です!
でも、剥ぎ取りの腕前だけは本物なんです! お願いします! せめて鑑定を!」
「はぁ、せっかく私が笑い者にならないようにと、気を使って鑑定をナシにしてあげようとしているのに……。
わかりました、そこまで言うのでしたら、ろくでなしが剥ぎ取った石を鑑定台にあげてください。
今度こそ遠慮なく、笑ってさしあげますから」
オネスコは「はいっ!」と返事をすると、おかいこぐるみの赤ちゃんのような物体を、プリシラから受け取る。
壇上にあがり、鑑定台の上に置き、包みを解いたとたん……。
光が、溢れ出した。
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