第15話
時間は少し戻る。
場所は、勇者のギルド『オールグリード エピティア支部』。
エピテイアはグロリアス王国の片隅にある田舎町。
家賃が安いので『フォーチュンクッキー』はこの場所にギルドを構えていた。
もはや世界一のギルドとなったオールグリードともなれば、こんなへんぴな場所にギルドを置く意味はほとんどない。
しかしギルド長である、絶対勇者デザイアンはこの支部を閉鎖したりはしなかった。
なぜならばデザイアンは、この支部をフォーチュンクッキーへの嫌がらせの拠点としていたから。
フォーチュンクッキーの近くに部下を置いておけば、動向も手に取るようにわかる。
フォーチュンクッキーがなにかクエストを受けようとしたら、競合として名乗りをあげ、受諾するのをやめさせる。
こうしてフォーチュンクッキーをじわじわと財政難に陥れ、ゆくゆくは破綻させ、ギルド長である姫巫女プリシラを手に入れようとしていたのだ。
そして今回も嫌がらせのために、モエルドリ討伐クエストに名乗りを上げさせていた。
エピティア支部のリーダーは、剥ぎ取り師であり、かつてジャックの弟子のひとりであった、『ポイテル』。
いくらギルドの支部とはいえ、剥ぎ取り師がリーダーをつとめるのは珍しい。
しかしこれは、剥ぎ取り師の新リーダーとなったカラマリが、デザイアンに取り入った結果であった。
今では『オールグリード』の支部の多くは、剥ぎ取り師が責任者をつとめている。
所属している他の職種の者たちは、それを快く思っていない。
それは剥ぎ取り師を取りまとめているカラマリが、経験も浅いのにギルドのナンバー2気取りであったから。
そのせいで剥ぎ取り師たちはギルド内に独自の派閥を作り上げ、他の職種に対して尊大に振る舞っていた。
そしてポイテルも例外ではない。
彼は調度品に囲まれた豪華なサロンに仲間を呼びつけ、今回のクエストについて説明をしていた。
「今回はフォーチュンクッキーの邪魔をするため、モエルドリをブチ殺すクエストっぽい。
んじゃあ、お前とお前、そこにいるお前とでパーティを組んだらいいっぽい。
場所はウィサー森林でいいっぽいね。
ブチ殺してくれれば、あとはポイが剥ぎ取って、報告しとくっぽいから」
ポイテルはギルドメンバーの意見も聞かず、パーティメンバーの選別から、探索場所の決定まで一方的に通告した。
選抜したメンバーは3人。
その
理由としては、モエルドリ程度であれば、戦士の3人もいれば瞬殺できると思っていたから。
ターゲットの探索場所をウィサー森林に決めたのは、距離的にいちばん近かったから。
彼は言ってのける。
「モエルドリなんてクソ雑魚っぽいし、これでいいっぽいよね。
今からやれば、昼前には帰ってこれるっぽいでしょ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ポイテルはブリーフィングを終えると、3人の仲間を引きつれて即日出発した。
日帰りできる距離なので、ほとんど着の身着のままで。
ウィサー森林であれば徒歩でも行ける距離なのだが、当たり前のように馬車を使う。
しかも借り物ではなく、ギルド所有のもの。
それはフォーチュンクッキーが借りていた、馬一頭で、帆すらない荷馬車とは大違い。
馬は三頭で、動く応接間を引いているような、豪華すぎる馬車であった。
ちなみにではあるが、冒険者の常識として、剥ぎ取り師というのは道案内役も兼任する場合が多い。
そのため馬車の御者席にはポイテルが座っていた。
しかしこのポイテルは態度こそベテランであったが、冒険者としての経験は素人に毛が生えた程度。
そのため、たいした距離でもないウィサー森林に行くのにも、何度も道に迷っていた。
乗っていた戦士たちは、いつまで経っても目的地に着かないので業を煮やす。
「ねぇ、リーダー! いつになったら着くんですか!?」
「ウィサーは歩いて1時間くらいでしょ!? こちとら馬車なのに、もう6時間は経ってますよ!?」
「リーダーは昼前は帰れるって言ってたでしょう!? それなのに、もう夕方ですよ!」
「うるさいっぽいなぁ。のんびりしてるだけっぽいのが、わからないっぽい?」
結局、目的地であるウィサー森林に到着したのは真夜中であった。
移動だけでヘトヘトになってしまったので、彼らは森のすぐそばにある村にひと晩の宿を求める。
すでにオールグリードを知らぬ者はいないので、ギルドタグを見せるだけで村人たちは歓待してくれた。
それをいいことに、一行は飲めや歌えの大騒ぎ。とうとう村娘にまで手を出していた。
村人たちは山賊を迎え入れてしまったかのように後悔していたが、相手が世界一のギルドなのでぐっと我慢する。
次の日、ポイテルたちは二日酔いの状態でウィサー森林の探索を開始。
森は今の時期は枯木だらけであったが、それでもやっぱり見通しは良くない。
そしてここでもポイテルの方向音痴が炸裂し、いつまで経っても目的のモエルドリを見つけることができなかった。
森の中をさまよう戦士たちはヘトヘトで、文句たらたら。
「ちょっと、リーダー! いつになったら見つけられるの!?
こっちは重い装備で歩いてんだよ!? さっさとしてよ!」
「この森はそんなに広くないでしょ!? それなのに、もう12時間は歩いてるよ!?」
「リーダーは今日の昼前は帰れるって言ってなかったか!?」
「うるさいっぽいなぁ。森林浴してるだけっぽいのが、わからないっぽい?」
「「「森林浴って、もう夜だよっ!」」」
戦士たちがキレかけた頃、ついに見つけた。
枯木を集めて作った巨大な巣のなかで、緑色の羽根を折りたたみ、今まさに眠りにつこうとしているモエルドリを。
彼らは茂みに身を潜め、様子を伺う。
その最中、パーティの中のひとりの戦士が、あることに気付いた。
「……そういえば、フォーチュンクッキーのヤツらとは会わなかったな」
「そういやそうだな、競合してるから、てっきりクエストの途中で会うかと思ってたんだけど……」
「アイツらバカだから、別の遠い所までモエルドリを探しに行ってるっぽいよ」
「そういうことだったのか、底辺ギルドらしいマヌケっぷりだ、あはははは」
笑いあう彼らは、これから嫌というほど思い知ることになる。
ジャックがなぜ、このウィサー森林を避けたのかを。
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