第4話

 ギルド『フォーチュンクッキー』のメンバーであるネイサン、グロック、アーチャンは、キツネとタヌキに同時につままれたような表情になっていた。。


 無理もない。

 本来は絶対に出ないはずの、ノーマルのリザーダックから、レアアイテムである『キングリザーダッグの胆石』が手に入ったのだから。


 3人組はしばらく呆然としていたが、やがて顔を見合わせてあって頷きあう。

 それぞれ腰からナイフを引き抜き、そこらじゅうに転がっているリザーダッグの死体を手当たり次第に剥ぎ取りはじめた。


 お目当てはもちろん、リザーダッグの肝臓。


 リザーダッグの肝臓は、動物のエサくらいしか使い道がない。

 そして臓器の中に入っているものもゴミなので、冒険者は誰も剥ぎ獲らなかった。


 案の定、肝臓を切り開いて出るのは、ただの石ころばかり。

 さらに3人組は剥ぎ取りに関しては素人だったので、1回ナイフを入れただけで、リザーダックの身体は溶け、土へと還っていく。


 彼らはハズレくじを確かめるように、その場にあったリザーダッグをすべて剥ぎ取る。

 剥ぎ取る前にはちゃんと跪いて、物欲神センサー様にお祈りを捧げて。


 しかし手に入ったのは、両手にあまるほどの石ころのみ。

 3人組は、ずずいっとジャックに詰め寄った。


 「やっぱり、石ころしか出ないじゃないか!」と女戦士ネイサン。


「そりゃ、お前たちの剥ぎ取り方が悪いんだろ」


 「剥ぎ取り方で、手に入るものが変わるなんて聞いたことねぇぞ!?」と青年魔術師グロック。


「そうか? だったらお前さんたちが、剥ぎ取る前にいちいち物欲センサーに祈ってるのは何の意味があるんだ?」


 「そりゃ、いいものが剥ぎ取れるからに決まってるでしょ!」と少女弓術師アーチャーのアーチャン。


「祈って手に入るものが変わるんだったら、剥ぎ取り方で手に入るものが変わってもおかしくないだろ」


 3人組は思わず、「「「へ、へりくつだーっ!!」」」とハモっていた。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 それからネイサン、グロック、アーチャンの3人組は、『毒眼竜の洞窟』をあとにする。

 グロリアス王国のとある地方にあるギルド、『フォーチュンクッキー』の本部へと戻っていた。


 ギルドメンバーの控室であるサロンに入ると、そこには偶然、ギルドの幹部たちがいた。


 ギルドの幹部は、エルフの少女3人組。

 姫巫女プリシラと、聖騎士オネスコと、大聖母ママベルである。


 出戻り組を見るなり、大聖母ママベルが、ふんわりした髪と大きな胸を揺らしながら出迎えてくれる。

 やわらかなタレ目の微笑みで、首からぶら下げていた黄金のカウベルを鳴らした。


「ちりんちり~ん、おかえりなさ~い。みんな疲れたでしょう? おやつにしましょうね」


 聖騎士オネスコは長い黒髪をかきあげ、厳しい吊り目をネイサンたちに向ける。


「ママベルさんはああ言ってるけど、おやつの前に確認させてもらうわ。

 ネイサンさん、グロックさん、アーチャンさん、わたしたちギルドのみんなで決めたでしょう?

 『キングリザーダッグの胆石』が手に入れるまでは、交代式のキャンプを張って、何ヶ月でも粘るって」


 「はぁ、それが……」と口ごもるネイサン。


「言い訳は聞きたくないわ。

 今朝出発したばかりのトップバッターのあなたたちが、もう戻ってくるなんてどういうことなの?

 キングリザーダッグの1匹は倒したんでしょうね?」


 「そ、それが、1匹も……」と困惑した様子のグロック。


「もう! キングリザーダッグは手強いけど、なんとかがんばって倒そうって、みんなで練習したじゃない!

 胆石を手に入れるためには、少なくとも30匹、多くて100匹は倒さないと駄目だってデータがあるのよ?

 10匹倒すのにも1ヶ月はかかるのは知ってるわよね!? それなのにどうしてもう戻ってきたのよ!?」


 聖騎士オネスコは黒い髪を振り乱し、背後にいるギルド長に向かって言った。


「プリシラ様からもなにかおっしゃってください! みんながこんなだから、このギルドはずっと砂塵級なんだって!」


 しかしプリシラと呼ばれた異国のドレスに身を包んだ少女は、深海のように暗い瞳と、エルフ特有の長い耳をうつむかせるばかり。

 垂れ込めるようなセミロングの毛先を揺らしもせず、美しくも悲しい音楽のような声を紡ぎ出す。


「……オネスコさん、そんなに怒らないであげてください。

 このギルドがずっと砂塵級なのは、みなさんのせいではありません。

 ギルド長であるわたしのせいです。わたしがもっとしっかりしていれば……」


 その悲壮に満ちた声に、サロンの空気はいっきに沈み込む。

 たまらず、アーチャンが叫んだ。


「ち……違うんです! プリシラ様! ついに胆石を手に入れたんです!」


 すかさずオネスコからの厳しい声が飛んでくる。


「ウソおっしゃい! クエストに出発してから1日も経ってないでしょう!?」


「そ、それが本当なんだよ、オネスコ! アタイたちも、まだ信じられないんだけど……!」


 と、出戻り組はポケットに手を突っ込んだあと、あるものを同時に取り出す。


 それは、水たまりに浮かぶ油のような、妖しい色に輝く石。

 そう、まぎれもない『キングリザーダッグの石』であった。


 それも、3つも……!


「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーっ!?」


 サロンにいたギルドメンバー全員が絶叫する。

 それはまさに、ひとつでもとんでもない効力を持つ印籠が、3つも出てきたかのようなリアクションであった。


 どわっ、とギルドメンバーたちは石のまわりに集まってくる。


「すげえ! 本物のキングリザーダッグの石だ!」


「1個だけでもすげえのに、3個もあるだなんて!」


「いったいどうやって、こんなに手に入れたんだよ!?」


 「それが……」とネイサンが事情を説明しようとしたとたん、


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」


 と絹を裂くような悲鳴が轟く

 それは、ギルドの台所からであった。


 ギルドメンバーたちはレア胆石の驚きもそこそこに、どやどやと台所に向かう。

 そこで目にしたものに、今度は印籠5個ぶんぐらいの驚きを爆発させていた。


「えっ……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーっ!?!?」

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