出会いと不可思議な陣

 地図かわからないのでは、見ていても仕方ありません。ということで、当てずっぽう…と言うのは少々投げやりですが、勘に任せることにしました。

 それに早苗さんは先ほど「舞香さんが住む奥の方」って言っていましたから、私が先ほどやってきた道とは逆の方向に行けばいいと思うのです。


 それに、山と川に挟まれているとはいえ、それなりに遠くまで見渡せます。

 …建物が少ないのが、理由の大半ですが。



 しばらく山沿いの道を歩いていると、右手のほうに神社が見えてきました。

 神社と言っても見えているのはまだ鳥居だけで、山のほうに階段が続いています。たぶん、この先に本殿があるのでしょう。


 …少し、気になります。まだお昼時ですし、学校の準備するのは明日でいいでしょう。


 私は欲望に負けて鳥居を潜り、階段を登り始めました。


 その鳥居には、よくわからない図形の描かれた、お札…? のようなものが所々に貼り付けられていました。もっとも、その殆どは昔貼られたものなのか、破れたり剥がれたりしていましたが。


 そして、私が登っている階段には、お札に描かれているものに似た図形が、ポツポツとチョークで描かれています。

 …これも、神社に関係あるものなのでしょうか。それとも、ただの落書き…?


「何にせよ、不思議な空間ですね…」


 そうやってきょろきょろしながら登っていくと、意外と直ぐに本殿のある場所に着きました。山の中腹あたりで、振り替えると川にある壁まで見渡しことができました。

 残念ながら、その先の外の街までは見えませんでしたが。



 私がたどり着いた場所…境内は、ちょっとした公園のような場所になっていました。階段から真っ直ぐいくと、本殿。右手にはベンチが、左手には、小さなブランコがありました。ただ、ブランコは整備されていないのか、随分と錆び付いています。


 そして、境内の中心には、先ほど見たような、けれどそれと比べるとかなり大きい図形のようなものが、地面に彫ってありました。


「これは…?」


 思わずその図形に近づいて、そっと線のふちに触れます。


「動くな!」


 突然の鋭い声に肩が跳ねます。

 慌てて顔を上げると…本殿の建物の裏から、1人の少女が姿を現しました。その手には…お札です! 鳥居に貼り付けられていたものと同じようなお札を手に持っていました。


「ここで何をしている」

「あ…えっと…」


 彼女の怒ったような表情に、言葉を詰まらせてしまいます。

 そんな私に、彼女は怒ったような表情をさらに深めます。


「この陣は、お前がやったのか?」


 陣? 陣とはなんでしょうか…この図形のことでしょうか。

 そんなこといわれても、私はこの図形が何を意味するのかすら知りません。「わ、私はこんなの知りません…」と答えるしかありませんでした。


 すると彼女は「そ、そうか…」と表情を緩め、気まずそうに目を逸らしました…が、すぐに表情を引き締めると、「こっちに来い」と陣とやらを避けながらこっちにやってきて、私の腕をつかみます。

 そのまま、私は引きずられるように本殿の裏に連れ込まれました。


****


 私と、私をここに連れ込んだ彼女は、1メートルほど距離を開けて、本殿の裏の地面に座り込んでいました。


 …どうしてこんなことになったのでしょうか。


 そういえば、まだ学校は始まっていないはずなのに、隣の彼女は制服と思われるセーラー服を着ています。

 長い黒髪を後ろでまとめた…ポニーテール? といわれる髪型です。背は私より小さくて、可愛らしい感じです。


 そんな彼女は、気まずそうな表情で、あちらを向いてしまっています。

 …私から話しかけるしかなさそうです。


「あの…」

「……なにさ」


 どうやら、言葉は返してもらえるようです。


「その、どうして私をここに…?」

「それは…ごめん、焦って連れ込んでしまった」


 彼女は、さらに俯いてしまいます。


「別に、責めているわけではないですよ? あなたにも事情があったのでしょうし。…ひとつ、聞いてもよろしいでしょうか」


 彼女は「何…?」と、俯き気にこちらを向きます。


「先程の…陣と言っていた図形は、一体何なのですか? ここにくる途中、鳥居に貼ってあったお札のようなものや、階段にも似たようなものがありましたが…」


 私の問いに、彼女はうっすらと驚きの表情を浮かべました。


「あれを見たのは、初めて?」


 彼女の問いかけに、私は「はい」と返します。

 すると彼女は、ふむ、と顔を上げて話し始めました。


「あれは、陣って言って、エニマを用いて様々な現象を起こすためのプログラム…のようなものだよ。ファンタジー小説の、魔法陣に似ているかな」

「なるほど…その、えにま? とは何なのでしょうか」

「エニマを知らない…? もしかして、ここに来たばかりだったり?」


 私が「そうですよ」と返すと、彼女は「なるほどね」と呟いて立ち上がりました。


「そうなると、あんたは今年の新入生か…それじゃあ、説明は時間がかかりそうだ。詳しい事は、また今度にしよう」

「今度、ですか?」

「あぁ…」


 彼女が、こちらに向きます。


「さっきは、ごめんね。不審な陣の監視って事で、ちょっとピリピリしてた」

「いえ、大丈夫ですよ。お仕事…なんですよね?」

「まぁ、うん。アルバイトみたいなものだよ…私の名前は、海色。安賀 海色だ。外部からの人だから、先輩か後輩かわからないけれど…よろしくね」


 そうして、彼女…海色さんは手を差し出しました。

 私は立ち上がってその手を握り返し、自己紹介をします。


「私は舞香と申します。今年で13歳になります。よろしくお願いしますね」


 私の自己紹介に、海色さんは驚いたような表情を浮かべます。


「あれ、同い年だね…それじゃあ、一応同級生か…」

「本当ですか? これも何かの縁でしょうか。これから色々とお世話になります」


 そういって、頭を下げます。


「あ、いや、こちらこそ…」


 頭を上げると、慌てて頭を下げたらしい海色さんと目が合い…思わずクスッと笑ってしまいました。



 その後、地図が読めず家がわからないことを打ち明けると、海色さんは不思議そうな表情をしながら、「それじゃあ、私が案内しようか?」と申し出てくれました。


「それはありがたいのですが…お仕事は大丈夫なのですか…?」

「大丈夫。あの陣は結局何も起こさなかったし。陣の処理するから、少し待ってね」


 そう言って、海色さんは境内の中心の大きなに向かいます。

 そしてしばらく陣のあちこちを睨んでいると…所々の線を足で消し始めました。よく見ると、大きな円の中の、小さな円などの図形を繋ぐ線を消しているようです。


 しばらくそんな作業を続けると、「終わったよ」とこちらを向きました。


「それじゃあ、案内するよ。渡された地図を見せてもらってもいい?」


 私は、はい、と返事をして、早苗さんから頂いた地図のうちの小さい方を渡します。

 海色さんは地図を広げると、「行こうか」と出口の方に歩き出しました。



 ふと、気になって、所々線を消された陣を眺めます。

 すると、端の方に、線が一切伸びていない図形が一つあることに気がつきました。


 …が、私は陣の意味がわかりません。あとで海色さんに聞くことにしましょう。


 私は、小走りで海色さんを追いかけて、出口の方に向かいました。

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