#02 サクッと
「はふぅ。ハウちゃんのアクションも無駄が多いって、いつも注意されるけどさ。この悪あがきって本当の無駄なんだけど分かんないかな。じゃ、サクッと行くか」
と両腕を、ちんまい胸の前に持ってきてから両手を組み背伸びなハウ。
「無駄だと。何の話だ?」
天真爛漫に笑ったハウに一正が、いくらか戸惑いを見せる。
「ケンダマンも解いているんだろうけど、ここはトリック担当のハウちゃんに任せておくんなまし。始まり始まり。さて、さっき殺す事ができないと言ったでしょ?」
と右の手のひらを上に向けてから、ずいっと前に出すハウ。
「ああ、ボクの車から血液反応が出なかったのは知っているだろう? だから奈緒子は車の中で死んだわけじゃないんだ。なによりも殺す為の時間がないんだよッ!」
一正は擬似的にでも密室が組まれていた事と決して崩れないアリバイを繰り返す。
「フムッ」
ハウはフーのモノマネを挟み続ける。
それが逆に盲点を作るんだよね。そんな事、常識じゃんよ。
「時間はあるよ。もちろん密室だって実は密室じゃないから」
OK。順を追って説明していくわさ。
アハッ。死因は脳挫傷だったねよね?
つまり、
奈緒子は頭部に強い衝撃を受けて死んだんだ。じゃ、どうやって衝撃を与えるかって話になるよね。そこで安全ピンとパチンコ玉の出番。安全ピンはワポンRのシートベルトに刺さってた。これが、どういった意味を持つのか。そんなの簡単だよ。
びゅおっと風を巻いて下から上へと右上段蹴り放ち、一正の鼻頭で足先を止める。
安全ピンは、走行中にドアが開け放たれるように細工する為に使われたんだわさ。
安全ピンを刺す事で、安全ピンが上部取り付け金具に引っかかるから、それ以上、ベルトが戻らなくなる。戻らなくなればベルトは余って、だらしなく伸びきったゴムのよう辺りに放置されるんだわさ。それを利用したのが、今回のトリックって事。
じゃ、さ。その伸びきったゴムを、一体、どう使ったのか?
伸びきったシートベルトの余りをドアの下に挟んでおいて、ドアをロックする事で細工は上々ってね。ドアの下にはベルトが挟まっているから寄りかかれば簡単に開くって寸法なわけ。ただ、闇雲にドアが開いても困るからロックをしてたんだろうね。
そして、任意の時間(※奈緒子を殺す時)が来たらロックを解除した。
そうだ。
ハウの言う通り。そして、ここにパチンコ玉が加えられる。
今度は押忍ッと気合いを入れて、右正拳突きを放ち一正の鼻頭ぎりぎりで止める。
雪の結晶が拳の風圧で軌道を変えられて、ふわりと一回転。
ただし、
これじゃ、まだトリックとしては上等なものじゃない。ここにパチンコ玉を加えて画竜点睛だわさ。奈緒子を殺そうと決めた時、パチンコ玉を使って後ろから追ってくる秀也をこけさせようと彼女に持ちかける。それに乗ってしまったのが奈緒子。
もちろん、秀也をこけさせて、あわよくば彼もまた同時に殺せると踏んでだわさ。
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