Chapter22 終焉

#01 ステレオタイプ

12月21日 午前10時15分。


「つまんないの。もう、うんざりだよ」


 とハウが後ろ頭に両手を回して言う。


 口笛を吹いて呆れたように天を仰ぐ。


 雪は、一旦、イキオイが収まって粉雪とも呼べるものでふわりと舞い降りてくる。


 なにがつまらないのかは聞かなくても分かる。つまり、一正の言動が、ドラマなどで見る追い詰められた犯人像と一致してしまうからだ。有り体に言えばステレオタイプ化してしまっているからだろう。無論、僕とて、不謹慎だが、飽きてきた。


 こうもお約束通りだとホワイでなくても先が読めてしまうからこそだ。


 ただし、


 このまま追い詰めれば……、何かしらしっぺ返しを喰らうのではないかとも思う。


 飽くまで予測の範疇でしかないが、彼が何かを隠しているような気がするわけだ。


 それでもフーは止まる事を知らず、淡々と追い詰めてゆく。


 まるで時計の秒針が刻一刻と時刻を指し示して人間の寿命が尽きてゆくかのよう。


「まあ、悪い事は言いません。もう、このまま自首しても良いのではないですか。それとも最後まで全てを明らかにしますか。わたくしどもはどちらでもいいのですが」


 と、フーは右からの流し目で一正を哀れみ、コートの裾が風で、ゆらりと揺れる。


「クソが」


 と、悪態をついてから一正は続ける。


「だがな。だから、どうだって話だよ。秀也を貶める為にウソをついていたからってどうだって言うんだ。ボクは奈緒子を殺してない。いや、殺せないんだよッ!」


 つばを吐いて、凜々しい眉を歪める。


 苦渋と呼べる顔で下から睨み付ける。


「フムッ」


 しんしんと降り続ける雪が、途端、強くなって小さき灰虫は輪舞曲に乗って歌う。


「確かに生死の境をさ迷ったというものがウソであったとしても、なんら問題はありません。倫理の話です。しかし、奈緒子さんを殺したとなれば話は違ってきます」


 …――だから自首を勧めたのですが。


 いやはや、回りくどかったですね。もっとハッキリと言いましょうか。


「奈緒子さんを殺した犯人は君ですね」


 フム。一正君、君で相違はないかと。


 この言葉には力が籠もっていて辺りの温度を微かに上げる。それでも凍てつく場は、一正の狂気と舞い踊り狂う雪が織りなす、奈緒子の悲しみであろう。フッと一正の足下に目をやると……、BRZから漏れ出したガソリンがせせらぎを作っている。


 ともすれば大爆発でも起こさないかと心配にもなって、恐くて心臓に手をあてる。


 手に胸ポケがあたって、中には気分転換に打って付けのものがあった。


 そうだ。


 持ってきてたんだった。気分を落ち着かせる為。良かった。


 ゴクリ。


 と息を飲んでから、ゆっくりとソレを取り出す。ただし、まだ使うつもりはない。

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