#08 小行進
「フムッ。確かに確固たる証拠はありません。ただし、少なくとも、一正君、君が市内の病院に入院していた記録がないのは事実です。生死の境をさ迷ったのにです」
……入院していた記録がないだって?
フーがハウの肩を、ポンポンと叩く。
少しだけですが、出番ですよ、ハウ。
と……。
「OK。パパ。ここから、ちょこっとだけ、ハウちゃん、出動なりよ」
右親指と右人差し指で輪っかを作る。
てかッ。
ハウのトリックで市内の病院全部の入院記録を調べたのか。でも、どうやってだ?
分からないとばかり、しゃべり出したハウを上目遣いで見つめる僕。
「OK。ケンダマン、いつもの分からないって顔だね。本当なら、ここでヒント料の一つでも欲しいところだけど、今は無料期間中だからね。心して聞くように」
と右親指と右人差し指をこすってパチンと音を出す。
「またそっちの話かよ。勘弁してくれよ。本当にな。ボクは、もう帰らせてもらう」
と一正は背を向けてから、ここから離れようとする。
これ幸いにとばかりに、ここから逃げ出すつもりだ。
「逃がさねぇよ。もうちっとだけ付き合えや。阿呆が」
と、秀也が一正の右腕を力強く握ったままで制する。
クッ!?
と舌打ちの一正を尻目に秀也がホワイに目配せして、これでいいのかと目で問う。
ホワイは可憐に小首を傾げてから微笑み、肯定する。
はいっ。
と……。
「まず、言っておきたいわさ。絶対に悪用しちゃやぁよとね。じゃ、入院記録が在るのか、ないのかの調べ方を大公開だわさ。ハウちゃんマジックの大暴露大会ッ!」
と場の空気を読まないハウのテンションに、益々、怒り心頭な一正。
しかし、
逃げだそうにも秀也に制されたままだからこそ全く動けないでいる。
「各病院に電話で問い合わせ、川村一正の家族の者ですが、残りの入院費を精算したいんですと言えば、はい、お終い。これで記録が在るか、ないかが、丸分かり」
ああっ!
そうか。
盲点だった。確かにハウが言った通りにすれば未払い金を調べてくれる。病院だって企業だから未払いが残るのは避けたいからな。無論、受け答えとして記録が在れば未払い金はないと言われるか、或いは未払い金はいくらいくらですと言われる。
逆に入院記録がなければ、本当に当院に入院した方でしょうかと聞かれるだろう。
なるほど。さすがはハウだ。うむむ。
「はい。お終い。ハウちゃんの小行進」
えへっ。
と、ハウはサングラスを再びかける。
チャキッと、ちゃきちゃき子っぽく。
「フム。どちらにしろ市内と隣市しか調べておりませんから、正直、証拠としては正確なものではありません。それでもある程度の精度は在ると思っております」
とフーが言って青い瞳をやや細める。
いやいや、市内と隣市を調べたならば……、もはや確定事項だろう。
「……クソ。クソが。ちくしょうがッ」
と、一正が吐き出すよう、うめいた。
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