#15 打ち止め

 なにを言っているのかは分からないが、ともかく心強い。お前でも。サイコパスな敵と戦闘狂なホワイ、愉しんでいるフーとハウの中にあって、一番、まともと思えるからだ。少なくとも味方が一人でも増えるのは大歓迎。祈った甲斐があったぜ。


「逝くぜ? クソ野郎がッ!」


 次の瞬間、彼の族車が倒れ、横滑りしてBRZへと向かっていく。


 雪で濡れた路面では面白いほどまでに、よく滑る。


 ドライバーである秀也はバイクを滑らせるままにして自分は路上を転がって脱出。


 わざとこけて己の族車をぶつけ、BRZにアタックをかけたのだ。


 一方、BRZは滑ってきた族車に足をとられる。そしてフロントノーズが持ち上がる。あり得ないほどの速度域にあったから、そのまま車体が浮き上がる。てか、今、目の前で何が起こっているんだ。四つ輪のマックスターンでも驚いたが……、


 今度は、それ以上の衝撃だ。


 そうなのだ。あり得ないのだ。なんと、BRZがジャンプしてから横転したのだ。


 つまり、


 族車がジェットスキーでのジャンプ台の役割を果たしてBRZを飛ばしたわけだ。


 無論、強制的に対向車線へと進路変更を余儀なくされたBRZとゴルゴが、ぶつかる事はなく、その場を無事に切り抜ける。あの必死な、必ず死ぬと思われた、チキンランを何事もなく、やり過ごした。言うまでもないが、勝利を、その手に掴みだ。


 そのあとガードレールへとぶつかり止まるBRZ。


「走りで私に勝とうなんて100回人生をやり直してから出直してきて下さいまし」


 横転して白く淡い煙を上げるBRZを背後にしたゴルゴの運転席でホワイは言う。


 にやりっと右口角をあげて。


 完全決着とでも今にも言い出しそうだ。


 そうして、停車するゴルゴ。


 静かに。


「さあ、尽きましたわ。ヤマケンさん。……これで、お終いですの」


 ほわわ。


 何とか死を免れたが、いまだ腰が抜けて立つ事さえままならない。


 てかっ。


 着いたって、一体、どこに?


「着きましたではありませんわ。話題が尽きるの尽きましたですの」


 また心を読まれた。でも、今は、そんな事はいい。


 尽いた?


 だって?


「ふふふ。まあ、ネタが尽きたという事ですね。本当に、これにて、お終いですの」


 とホワイが口元を押さえてから優美にも微笑んだ。


 そして、


 周りを見渡してから尽きましたと着きましたを併せた意味を知る。


 というか、ここって。そうだよな。あそこだよな。


 奈緒子の死体が発見された殺害現場だ。そしてBRZが倒れているあそこは……。


 おびただしい数のパチンコ玉が発見された場所だ。


 きっかりと計ったようにだ。


 まさか。


 まさかだとは思うが、ここに止まった事は全て計算の内で、始めから、ここに来る為、そしてBRZに乗る人物を、ここに誘う為に仕組まれた罠だったというわけか。あり得ない。いくら人心操作に長け、ドラクテクが神業のレベルでも……、


 あり得んだろう。そんな事。


 マジか。


 茫然自失という言葉は、こんな時の為にある言葉なんだろうとさえ感じ納得した。


「これにて、捜査は、お終いなりよ。あとは追い詰めて、そのあとで大団円ってね」


 と、ハウも豪快に、けらけらと天を仰ぎ、笑った。

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