Chapter21 サイコパス
#01 日が沈むよう
12月21日 午前9時49分。
雪が降りしきる峠道での時間が、ゆっくりと流れる。
BGMは、荘厳で哀しげなクラシック曲が、よく似合うような静かなる景色と場。
雪を舞い踊らせる風が木々を揺らして、さわさわ、と耳を撫でる心地がよい音色。
いまだ白い煙を吐き出し続けるBRZ。
しんしんと、こんこんと降りしきる雪。
族車を捨てて道路に転がり出た秀也が、いくらか離れた場所で立ち上がり、BRZへと向かってゆく。その足取りは、しっかりとした意思が感じられる。怒り。そう表現するのが、一番、適確であろう。僕は、いまだゴルゴの中で静かに息を飲む。
少々、積もった雪をぎゅっぎゅっと音を立て踏みしめ前に進む秀也。
「阿呆が」
と一言だけつぶやき、BRZのボディーを強く蹴る。
「出てこいや? 阿呆」
その言葉に反応したのか、それとも、そうなるべく時が流れて、そうなったのか、
それは分からないが、BRZの中からドライバーが這い出してくる。
ヨロヨロとした足取りで、今は、弱々しくも思える。
アレは?
すでにゴルゴの中には僕しか残されておらず、フーとハウ、そしてホワイは路上に出て静観している。僕はBRZのドライバーが、あの男に見えたが、ここからはよく見えず、慌てて車外へと飛び出す。そののち目をこらしてからまた男を見つめる。
一正だ。
川村一正だよな? うん。間違いない。
雪が肩に降りてきてから静寂を強調するような冷たさを感じさせる。
そうだ。
今、BRZから降りてきた男は一正で間違いがない。
それを確認したのと同時に、ああ、やっぱりだったかという気持ちと僕の計算通りになったようだという意味での良かったという安堵感を覚えた。風は吹きすさび、雪は更に激しくなる。もやは寒いというよりは痛いというレベルにまで達する。
秀也は一正の胸ぐらを掴んで、無理矢理、立たせる。
「テメェ? まだ、こんな事やってんのかよ。ああ?」
「ふんッ」
と血を流しながらも骨折などはなく奇跡的にも五体満足であろう一正が鼻で笑う。
「お前だけには言われたくないね。ボクのBRZを事故らせて、ボクを意識不明の重体にまで追い込んだ、お前にはね。お前も死ねば良かったんだよ。あの事故でさ」
と言って顔を背ける。
もはや、ここまできたら犯人は一正で確定なのだが、一つ分からない事がある。いや、一つどころではないのだが、これは知りたい。一正の車はワポンRであったはずなのだが、今、そこで白い煙を吐いているのはBRZだという事が不思議なわけだ。
これは、一体どういう了見なんだろう?
「ふふふ」
視界の端で、ホワイがハウの脇腹辺りを、つついているのが見える。
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