#14 風と共に

「だからこそ勝敗など度外視。どちらが先にブレーキをかけるか、避けるかなど、どうでもいいのですよ。むしろ、止まる事もなく避ける事もないでしょう。フム」


 捜査を始める前、山口君はこう思ったのでしょう?


 世の探偵は殺人事件を依頼として請け負わない。それはリスクに対してメリットが少ないからだと。そのリスクの中で、一番、大きなもの、それは殺人犯がキレて探偵を殺しにくるというものです。今の状況こそ、まさに、それなわけです。フム。


 ただし、


 わたくしどもには、それを超えるメリットがある。


 つまり、


 事件を推理する依頼者の言動を愉しめる推理ゲームというメリットがあるのです。


 まあ、でも、今回のそれも、そろそろ、お終いとなるのですがね。


 すわネタも尽きましたしね。


 フムッ!


 と、再び、後方へと強烈なGがかかり、ゴルゴのシートへと張り付けられる僕達。


 どうやら更にアクセルを開け、加速させたようだ。じりじりと上がる速度は、もはや常軌を逸していて降りしきる白く丸い雪の結晶が長い尾をひく水星のようにも見える。無論、錯覚でしかないのだが、それほどまでの速度域にいるという事だ。


 チラッと見えるスピードメータを覗く。


 微かな路面の起伏でも車体が大げさに跳ねて上手く見えないが122kmだとッ!


 まだまだ止まる気配さえ見せず上がってゆく速度。


 遂に、窓から見える景色は、空気がよどんでいるのか、速度のせいなのか、ねっとりとした水飴を通してみるよう歪み湾曲する。降りしきる細かい雪は認識する事は叶わず、下手をすると晴れていると錯覚してしまうような風景画が描かれた。


「いくらかですが、長い、このストレートで決着をつけましょうか。逝きますわよ」


 峠道を上るホワイが操る赤いゴルゴと下り降りてくる謎の人物が繰る蒼いBRZ。


 今、二筋の赤いレーザと蒼いレーザが、お互いへと向かい一気に突っ込んでゆく。


 目をつむる。必死で祈る。お助けとッ!


 ククク。


 ボクは死んでも構わない。君らを殺してボクも奈緒子の元に逝く。


「負けませんわ。ジンチョウゲを掴むのは私ですの」


 止めて!


 ククク。みんな、死ね。死んでしまえ。これで全て終わりなんだよ。アハハッ!!


 と……。


 ゴルゴの横をスパッと抜け出す一陣の風と共に現れたナイスガイ。


 まるで、放たれた黒い矢とも表現できる、そいつ。


 たった今、ぶつからんとするゴルゴの前に出てBRZへと向かう。


「遅れっちまって済まねぇ。やつを見失って探すのに手間取ってな。でもよ。ヒーローってのは遅れてくるもんだぜ? それこそが俺ッち。喧嘩上等じゃ、コラッ!」


 秀也ッ!


 野々村秀也がここで現れた。


 三段シートが特徴的な、あの族車に、またがって。

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