#11 満を持して

 …――これにて、お終いなのだ。ネタも尽きたし。


「そこ行く紳士・淑女の皆々様、さて、お立ち会い」


 華麗な解決編前のド派手な最後の見せ場でござる。


 とハウが鼻歌まじりに言う。


 HOME・MADE・家族っぽいリズムな謎鼻歌。


 ただし、


 その顔は天真爛漫ながらも、まさに邪悪そのもの。


 バシバシと力強く背中を叩いてくるのだが、それが余計にウザい。


 あれからBRZは鳴りを潜めていて平和なドライブが続いている。


 赤いゴルゴも巡航速度で平穏無事な時間が流れる。しかし、どこに向かっているのかは分からない。分からないが、山道に入った事は入った。無論、山道とは峠道であり、走り屋御用達な、そこなわけだ。まさか単純に走りにきたわけでもあるまい。


 本当に、どこに向かってきているんだ。


 次から次へと湧き上がってくる不安は拭えず、ともすれば体が震えてきてしまう。


 冷や汗すら、じわりとにじみ出てくる。


「これから始まるホイールオブフォーチュン(運命の輪)な天外魔境にレッツら・ゴーだべしゃ。とりま、意味はないから、ずずぃっと気にしないでおくんなまし」


 と、右手で手刀を切るハウ。


 相撲取りが勝ちを収めて、ご祝儀を受け取るよう。


 というか、真面目にウザいんだけどさ……、このスパイモドキなトリック王さん。


 というかだ。というか、とりま、は、すでに死語の領域だろうが。


 いや、むしろ死後の世界に誘うパスポートなのか?


 助手席で、クククっと音にも声にもならない謎音を発し、口元に手をあてて笑うフーが、またウザすぎる。多分に僕の心の内など、お見通しで、その上で小馬鹿にしているのだろう。死語とか、死後とか、仕事ぬきで考えている子午線を越えた僕を。


 うむむ。


 今更、言うまでもないが、目が逝ってしまっている花言葉の賢者も恐すぎるしな。


 てか、本当に、一体、どこへと向かっているんだ?


 雪の中、疾走するゴルゴもそうだが、このお話も。


「来ましたわ。お覚悟ッ!?」


 いきなり、ホワイが、独り言なのか、僕らに言ったのか分からない事を言い出す。


 うむっ。


 なにが来たのか、まったく分からない。いや、もしかしたらというものはあるのだが、だとしたら混乱した場が更に混乱するから止めてくれとしか言えない。そうなのだ。あのBRZ-XXの運転手が一正だと仮定した時にだけ導き出される答え。


 黒塗りのブラウン・マジェスカが、ここで満を持して、ご登場ッ!


 つまり、


 野乃実が、混迷を極める今という状況を更に、かき回しにきたと言いたいわけだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る