#12 諦めるな

「おお。確かに対向車線から来るね。運命の輪さん」


 ハウが右手で、ひさしを作って目を細め、前方をのんきに眺める。


「ジンチョウゲは間違いなく私の頭上に輝くのです。負けませんわ」


 と一気にアクセルを開ける。


 がくんっと後方へと吸い込まれる僕ら。


 いやいや、ちょっと待てッ。待てよ。敵は対向車線から向かって来てるんだろう?


 だったら負けないもなにも勝負にならないだろうが。片側一車線で対向車線ならば、すれ違うだけの話だぜよ。それを、対抗意識、むき出しになられると、逆に、めちゃくちゃ恐いんですけど。不安が半端ないんですけど。ねぇ、ホワイさん?


 前のガラスに弾丸と化した雪がバシバシという不穏な音を立て、ぶつかり続ける。


 ねぇねぇ、……ホワイさん?


 多分、路面コンディションも最悪な上に最低を塗り込めた劣悪なものなんだろう。


 だから。


 だからこそ余計に恐いのですよ。はい。


 というか、本当に、なにが起こるんだよ、この先。


「ケンダマン、分からないって顔しているね。よかろう。このハウ様が懇切丁寧に解説してあげよう。任せなさい。その代わりに……、はい、ヒント料をよこせ」


 と手を差し出してくるハウ。


 バカ野郎。この期に及んでも、まだヒント料かよ。


 むしろ、奈緒子の父親から預かった依頼料の最後に残った一回分を綺麗に回収して大団円を目指しているわけか。性悪な灰色探偵ダニットは。うむっ。こうなると意地でも渡したくもなくなるが。……てかッ!? それより、前、前ッ! 前ッ!


 なんと!


 なんとだ。前から現れたのはブラウン・マジェスカではなかった。


 なんと、BRZだったのだ。


 やつが、山道を駆け降りてきたのだ。先の先の方にチラッと見えただけなのだが。


 ここは片側一車線の二車線しかない峠道。右が山で左が崖となっている狭い道路。


 その対向車線ではなく、ゴルゴと同じ車線を駆け下りてきたのだ。


 いや、正確には、さっきまでは対向車線だったのだが、すわ車線変更したわけだ。


 つまり、


 このままゴルゴかBRZが止まらるか避けなければ正面衝突必至。


 まさに天国か地獄への片道切符を強制受諾させられたも同じ事だ。


 ただし、


 ここで、


 戦闘狂へと変貌してしまったホワイには何を言っても無駄だろう。


 だからこそ問おう。君へと。


 BRZの運転手よ、君は誰で、一体、なにを考えているんだとッ!


「だからヒント料を払いなよ」


 そしたら謎が解けるからさ。


 とハウ。

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