#07 実験

 イライラしつつ車を走らせていると、また先の信号が赤に変わる。


 また舌打ちをしてツイてないとも思ってしまう。イライラが加速する。やっぱり人間は自分勝手なのだが、今は、やはり、どうでもいい。ともかく車を停車させた僕は視線を上へと向け考える。しかし、イライラが邪魔をして良い考えが浮かばない。


 クソが。


 忙しくなかったのに、変な手紙のせいで忙しくなっちまったよッ!


 と……。


 あれっ。


 忙しいだって。そうか。忙しいか。今は忙しいな。うん。忙しい。


 そうなのだ。気づけたわけだ。運転とは忙しいものだという事に。フー達から言わせれば気づくのが遅いのかもしれない。しかし、それでも気づけたのだ。とても重要な事に。この紙から導き出した。事件にとって大きな一歩を。解決が見えてきた。


 そうだ。


 奈緒子が死んだ、あの時、一正は忙しかった。手が離せなかった。


 にも拘わらず、僕が達した結論は、


 秀也のバイクを止める為に一正がパチンコ玉をまいたというもの。


 そう。あの状況下で一正は玉をまく事ができないというのに、だ。


 そして、こう思った。


 結論づけた。うむっ。


 あのパチンコ玉は、実のところ奈緒子がまいたのではあるまいか。


 と……。


 だとするならば、と興奮気味に鼻の穴を含まして鼻息荒く考える。


 ふんふんふん。鹿のふん。と謎めいた調子を合わせて考え続ける。


 あの安全ピンは……、で、シートベルトが……、こうで、うむっ!


 いいぞ。


 愛車を近くのコンビニの駐車場に入れ、停車する。


 実験を開始する。無論、フー達との待ち合わせ時間には間に合わなくなる。いや、遅刻など、この際、どうでもいいのだ。それよりも僕が達したトリックに対しての推論が実行可能なのかを試したい。何度か試してみてから、また結論づける。


 可能だ。


 いや、可能などころか、確実に同乗者を殺せるッ!


 そうか。


 一正は、こうやって奈緒子を殺したのか。うむむ。


 ようやくだ。ようやくゴールが見えてきたぞッ!?


 そののち腕時計で時間を確認する。


 ……午前7時26分。


 ここから、すっ飛ばして、ふわふわに向かっても遅刻だろう。まあ、でも、謝ればいいか。推理ゲームをやっているとはいえ、僕は依頼者だからな。フー達からすれば客なのだから。と……、車の中に残してあってスマホが、けたたましく鳴る。


 やれやれだ。催促か。


 トリックも解明した事だし、ガツンっと言ってやるか。ちょっとだけ待て、とな。


 うむっ。

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