#08 わかなかや・ののみ

 てかさ。


 まだ待ち合わせの時間は過ぎてないのに。ふおっ。


 のろのろとドアを開けてからスマホを手にとった時、紙を見つけた時より驚いた。


 それは、


 電話ではなく、無論、ハウやホワイからのメッセージでもなくて。


 マジか。


 ……CVさんからだ。


 心が躍ってから歓喜に打ち震えた。


 CVさんからメッセージが来たッ!


 そう。もう連絡が取れないだろうと諦めていたCVさんから連絡が入ったわけだ。


 スマホを握りしめる。ドキドキとした激しく収まらない動悸を必死で押さえ込みながらも。その様は、まるで童貞卒業を目の前にした少年のようにも感じた。自分の事ながらもな。そののち震える手でチャット画面を開く。焦ってワタワタしながら。


 良かったと胸をなで下ろしつつメッセージを読む。


 なんだ?


>さようなら、と言ったにも拘わらず、また性懲りもなく現れて申し訳ありません。


 気にすんなや。むしろ、連絡をくれて嬉しいぞよ。


 などと変なテンションで会話続ける。CVさんからの連絡が嬉しすぎたのだ。言うまでもないが、気にすんなやなどとは言ってない。気にしないで下さいと返事した。それでも気分は絶好調。敬遠の球ですら場外ホームランできる気になっていた。


 で、一体、どうしましたか? と。


>車の中に置いた紙は読んで頂けたでしょうか。あれは私からの最後のメッセージです。なぜ最後なのか。それは私が若中野野乃実(わかなかや・ののみ)だからです。


 車の中に置いた紙……、ああ、あれは、CVさんからだったのか。


 というか、あれ? ちょっと待て。


 CVさんが、いつの間に僕の車に……、てか、それって忍び込んだって事なのか?


 いやいや、そもそも若中野野乃実って誰なんだよ?


 聞いた事がない名だ。


 というか、CVさんの地元は小春市近郊で近くに住んでいたのか?


 あれれ?


 混乱が止まらないぞ。


>そして、


 ううん?


 ……続きがあるのか?


 もう勘弁してくれッ。


>付け加えるならば……、あなたが山口堅太さんだからでしょうか。


 まあ、僕の名は山口堅太で間違いない。それがどうしたんだろう?


 そこで、


 僕は、このメッセージが持つ不思議な点に気づく。


 一気に血の気が引く。


 生きた心地がしない。


 目が皿のように丸くも大きくなり、ともすれば飛び出してしまいそうにも感じる。


 口をだらしなく開けて、大きな息が一気に漏れる。


 スピーカーから溢れ出る大正浪漫の歌詞である募る想いというものが、のしかかってくる。ずっしりと募った想いが、重く肩に。四つ葉のCVと名乗り、身を隠して裏で(安全圏で)、ほくそ笑んでいた黒幕の冷たくも、どす黒い想いの塊がだ。


 ひしひしと生き馬の目を抜くよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る