#06 なにもない
先ほどまで止められてツイてない、と考えていた僕とは大違いだ。
まあ、人間とは身勝手なものなのだよ。今更、言うまでもなくな。
とにかく、止まっている間にと急いで紙を裏返す。
愕然とする。いや、正確には、また、やられたという気持ちが鎌首をもたげたといった方が適切か。つまり、紙の裏側にあった悪意には毒気を吹き付けてから底意地の悪さをブレンドものだったわけだ。隠し味にと害意を振りかけられたな。クソが。
そう。なにも書かれていなかったのだ。裏側にも。
無論、あぶり出しだとか、そういった可能性もあるからと咄嗟に胸ポケットに収まっていた100円ライターで軽くあぶってもみたが、その形跡はなかった。全くもって。つまり、正真正銘、申し訳ないという文章しか書かれていなかったわけだ。
無論、誰が書いたのかという署名すらもなかった。
丸っこい文字から察するにロマンスグレーなフーではないだろう。フーが丸文字を書かないというのは勝手な思い込みだが、まあ、ないだろうな。だからハウかホワイのどちらかだ。しかし、そのどちらなのかすらも分からない状態。うむむっ。
昨日、この車を運転したのがホワイであるからホワイだと判断するのが関の山だ。
まあ、でも誰が書いたのかなどという問題は、今はどうでもいい。
それよりも、この謎めいた紙に書かれた文章の意味はなんなのか。
いや、文章自体に意味などないのかもしれないが、それでも何らかの意味があるからこそ紙を残した。灰色探偵との短い付き合いを経て、彼らがやらかす事を考えるならば、それこそが合理解。だったら紙が持つ意味は、なんだと、また考える。
信号が青へと変わる。
チッと舌打ちをして、
僕は、また紙を助手席に放り投げてフーレアワゴンを発進させる。
答えが、まだ己の中にない事に怒りを覚えたのだ。
色々、考えてみるが、案の定というべきか、解は思い浮かばない。
無論、文章から離れてみても意味が分からない。いや、一つだけ分かっている事はある。それは、このまま、ふわふわ(魔城)に着き、この紙の意味を彼ら(魔王達)に問えば、こう返されるという事だ。フム。よろしい。ヒントの請求ですね。と。
ぐぎぎ。
悔しくなってしまい、歯ぎしりすらもしてしまう。
大体、お忙しいところ申し訳ありませんって何だ?
別に忙しくないし、むしろ変な紙を残されたから忙しくなってしまったくらいだ。
クソッ。
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