#02 釘と本
「となると、釘を閉めざるを得ないわけですよ。つまり、ホール側は出さなくなる」
釘を閉める? いや、出さないというのは悪手じゃないのか?
出さなくなるから客足が遠のく。遠のくと、更に釘を閉める。
という負のスパイラルへと陥るんじゃないのか? まあ、詳しくは知らんのだが。
てか、パチンコは、事件のトリックに使われた玉だけでいい。
充分だ。
パチンコ業界と聞き、なにかの役に立つかもと思ったが……。
やはりヒントや閃きなどを期待した僕がバカだったのかもな。
ともかくTVのスイッチを切ってから、ようやく訪れた静寂の中で静かに考える。
昨日、風呂の中で考えた(まとめた)事件の大枠を俯瞰する。
うむっ。
僕の中でも、犯人と動機の二点に関しては、完全に固まった。
犯人は川村一正で問題がない。動機も勘違いから発生して転嫁した怨恨。二つ目の助言に照らし合わせてみても、これで間違いない。残る問題はトリック。そして、今、分かっているトリックに拘わる手がかりは安全ピンとパチンコ玉の二つのみ。
様々な可能性を精査しながら目を閉じる。
ゆっくり思考を巡らせる。
しかし、
いくら考えても昨日の時点から新たな事実が判明したわけではない。無論、閃きがあったわけでもない。言ってしまば、昨日と同じ状況なわけだ。だからこそトリックが解けるはずもなく、やはりというべきか、思案の渦に飲み込まれてしまう。
はふぅ。
フッと視線が本棚に向く。
別に、そこに、なにかが在ると考えたわけではなくて、飽くまで、なんとなくだ。
ある種の現実逃避だろう。
本か。まあ、なにかの足しにはなるかな。
と……。
同業者の中で、そんなに本は多い方だとは思わない。それでも壁一面に設置された本棚の中には様々な本がある。社会の裏側をスクープしたものや建築設計の本、犯罪史から料理のレシピ本など本当に様々だ。しかし、特にこれといったものはない。
無論、奈緒子のソレに対してヒントとなるといった意味でだ。
まあ、強いて言えば社会の裏側のスクープ本と犯罪史の本が、それに、もっとも近しいものとも思うが、そのどちらも、一見だが浮世離れした今回の事件に対して参考になるとは思えない。それでも、なにも手がなく追い詰められた僕は本を手に取る。
一応だが時間を確認する。
フーには7時30分に、ふわふわに来いと言われているから遅れないようにとだ。
6時25分か。もう少しだけ時間がある。
とりあえず犯罪史の本を手に取ったから、それをパラパラと軽快に素早くめくる。
何件か、通り魔事件やサイコパスの事件を目にして違うなと落胆しつつ更にページを進める。ハッキングから始まった掲示板殺人事件というものが目に飛び込むが、それも求めていたものとは違う。はてさて、一体、どうしたものか思った時……。
道交法犯罪事件簿というタイトルが僕の目を引く。グイッと。
それは、
つまり釘というワードを持つ事件だった。
パチンコ台の釘。TVでも言っていたから余計に気になった。
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