#03 あと少し
あれっ?
もしかして、これは事件のヒントになり得るんじゃないのか?
ふむむっと、読み進める。
それは、
2002年に愛知県で起きた事件。概要は、パチンコ都市である名古屋市の路上にパチンコ台に使われている釘を犯人が大量にばらまいたというもの。おびただしい数の釘がまかれた現場では車がパンクするという事故が多発したらしい。
パチンコの釘か。……奈緒子の事件ではパチンコ玉だ。近いような、遠いような。
更にと、読み進めてみる。
犯人は69歳の男。以前、現場付近を車で走行中、後続のトラックから執拗に煽られ、怒りを覚えての犯行だそうだ。無論、トラックが、また現場を走行すると踏んでのものらしい。まあ、トラックならば決まったルートを走る可能性があるからな。
うむむ。
ともすれば奈緒子の事件でも、彼女を轢いたトラックが現場を定期的に通ると知っていてパチンコ玉を……、いや、違うな。件のトラックはパチンコ玉を踏んではいなかった。という事は、たとえ定期的に通るとしても玉との繋がりは認められない。
今、目にした事件は、飽くまで釘を踏んでパンクをしたという前提だからこそな。
確かに、パチンコ玉を踏み、トラックがスリップしたというのならば話も違うが。
今回は真逆でパチンコ玉を踏んでいなかったからこそなのだ。
それに、これでは安全ピンの意味が完全に宙に浮いてしまう。
うむむ。
と、そこで真逆という言葉が不思議と頭の中で引っかかった。
真逆か。
そうだ。
もしだ。
奈緒子が死ぬ直前に乗っていた一正の車ではなく、トラックでもなく、それが、ある意味で真逆といえる秀也のバイクだったとするならば。すなわち玉をまいて進路妨害をする対象が秀也のソレだったら……、ちょっと待て。そうだ。なるほど。
もしかして、ソレは、あり得る可能性だ。
無論、秀也のバイクの走行を妨害しても奈緒子は死なない。ただし、一正にはメリットがある。バイクがスリップ事故を起こし、彼が死ねば願ったり叶ったりだからだ。死なないまでも追われていたのだから走行を妨害すれば、まく事もできる。
加えて、
トラックが踏んでいないのば、ソレが秀也へと向けられたからだと考えると……。
一気に意味が繋がるのだ。
それは、
秀也が横道に逸れずに追ってきていたと考えた一正がバイクの走行を妨害する為にパチンコ玉をまく。秀也を殺す為。スリップ事故を起こさせてだ。事件当時、それだけの速度域にもあったしな。その後、なんとかして奈緒子を殺した後……、
玉は、証拠隠滅とばかりに路肩に捨てる。
路肩に捨てたのだからトラックがパチンコ玉を踏む事はない。
トラック運転手に、なにかを踏まなかったと念を押し確認した意味も、わざわざ宅配会社に赴き、タイヤに玉が挟まっていないか確認した事の意味も分かる。それは、すなわち秀也のバイクがパチンコ玉の標的だっという裏付けをとる為だったんだ。
うんッ。なんだか、あり得そうな線だぞ。
ただ、これだけではまだ材料が足りない。
実際には、秀也がパチンコ玉で走行を妨害されたとは聞いてもいないし、死んでもいない。それどころかパチンコ玉の存在さえ知らないだろう。自分の命が脅かされたであろうパチンコ玉の話が、秀也側からは一切、出てきていないのだからな。
無論、安全ピンの意味も、宙に浮いたままで解けてはいない。
ただ、繰り返すが、トラックが踏んでいなかったと考えると。
うむっ。
僕は更に本のページをめくる。興奮して。
しかし、
目の端に飛び込んできた時計が無情にも時間切れを知らせる。
午前6時48分。……、そろそろ家を出ねばならない時間だ。
なんだか、あと少しでとさえも思うのだが、仕方がないか、と時計を睨んでみた。
が、なんの意味もない行動で時間だけが浪費された。そうして、机の上に置かれた財布と玄関の鍵を手に取り、ふわふわへと向かった。今、思いついたパチンコ玉の使い方を、もう一度、改めて頭の中へと思い浮かべて考えつつ。もう少しだ、と。
そして、
愛車のドアを開けてからドライバーズシートへと滑り込んだ。
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