Chapter19 一夜あけて

#01 ひゅるりら

12月21日 午前6時09分。


 …――僕はTVとにらめっこをしている。


 ジッと画面を睨み付ける。


 まるで親の仇を目の前にしたようキッと。


 僕はTVが嫌いだ。特にワイドショー的なものが大嫌いだ。無責任なコメンテーターが、その都度、ホットな話題について、いい加減な持論をのたまうのを見ると吐き気をもよおす。言うまでもないが、だったらTVなど見なければいいと思われよう。


 まあ、それは職業柄としか答えられない。


 僕は、フリーライターだから、ある程度の流行は押さえておかねばならぬわけだ。


 仕方なくと言ってしまえばいいだろうか。


 なんでも仕事にすれば面倒くさいのだよ。


 とだけ。


 加えて、


 まったく奈緒子の事件と関係がない情報でも、なんらかのヒントがあればといった卑しい気持ちもあった。偶然が推理を進めてくれないか、或いは閃きがあって、それが突破口にならないかと、そう思ったわけだ。だからこそTVを見ているわけだ。


 兎に角。


 TVとにらみ合いは続いている。いまだ。


「では、次はこの話題です」


 朝、起きてから一番に冷蔵庫から取り出してきたトマトジュースの缶を手に取る。


 キンキンにも冷えている。


「今、パチンコ業界に暗雲が立ちこめているとする識者の……」


 ぬうん。


 パチンコなどやらぬわッ!


 などと脳内で文句を言いながらTVの画面から目を離さず、TVからの音声に耳を傾けてトマトジュースの缶を開ける。そのあと底にトマトのエキスがたまってしまっていてはと缶を振る。思いっきり。無論、TV、憎しな感情が引き起こした事件。


 まさに、たまったもんじゃない的な事件。


 当然ながら開栓されていたトマトジュースが一気に飛び散る。


「うわっ」


 しまった。マジかよ。朝からついてない。


 寝間着がジュースで、びしょ濡れになる。


 やっちまった。クソがッ!


 などと思ってみても自分がやってしまった事だから自分を恨むしかないわけだが。


 相変わらずTVをつけたままで着替える。


 どうせならば外出着に着替えようとワイシャツに手を通す。コーデは、ほぼ昨日と同じ。ただし、ネクタイだけ赤い無地のものを選ぶ。まあ、ネクタイだけ変えたのは気分に過ぎない。タバコも胸ポケに。そして寝間着を洗い場へダンクシュート。


 その後、またTVの前に座りトマトジュースの缶を手に取る。


 ズズッと音を立ててジュースを流し込む。


「というわけで信用保証制度と信用保険制度がパチンコホールを経営するホール企業の命綱となるわけです。しかしながら現実では満額融資が難しい状況でして……」


 信用保証制度と信用保険制度か。……その違いすら分からん。


 僕には。


 まあ、保険と言えば三つの助言の内の最後の一つがそれだな。


 うむむ。

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