#06 完成と進歩
慌てるな。奥底へと歩を進めるのは、仕上げが終わったあとからだ。
推理という絵を描き上げてからでも、遅くはないはず。
そうだ。
今は、まだ色を置き影をつけている段階。
とりあえず最後の要素を使い仕上げをしてから、その件を考えよう。
最後は時間的なものだな。
この仕上げが終わったら総決算だ。ここからが、本番となるだろう。
うむっ。
秀也が奈緒子の死直前にかけた電話が午後11時47分。一正の車を止めたのが午後11時58分。奈緒子が消えて隣町のコンビニで一正が確認されたのが午前0時24分。その後、公式で奈緒子が死んだとされる時間が午前0時36分となっている。
よしっ!
これで仕上げもお終いだ。
じゃ、推理を進めようか。
……ここで大事なのは午後11時47分と午後11時58分の二つ。
つまり、
実際に奈緒子が死んだ時間を導き出せるであろう時間。
11時47分の時点では、
一正の車に同乗する奈緒子を確認した秀也が電話をして、彼女は電話に出ている。
つまり、
彼女は車中で生きていた。
そして、
11時58分の時点では一正の車から奈緒子は消える。
実際に秀也が目にしているのだから揺るがない事実だ。
加えて、
秀也が電話で奈緒子とオカルッチックな会話をしたともされている。無論、オカルトとして消え去った、或いは死んだというのは荒唐無稽。ここにも、しっかりとしたカラクリがあるはずだ。ともかく、この間で死んだとした方が合理的に思える。
つまり、午後11時47分から午後11時58分という空白の11分間の内にだ。
という事は、安全ピンもパチンコ玉も、この11分間の内に使われたとも言える。
それは、
一正の憎しみがぶつけられた時間となる。
しかし、車の中で殺人は行われていない。
安全ピンとパチンコ玉を使ったトリックを使って11分という短時間で行われた。
殺人という大仕事が、だ。
できた。
不格好ながらも、推理という名の絵がな。
おお。ちょっと待て。マジか。マジでか。
嬉しくなって湯船の中で小さいながらもガッツポーズ。
フフフ。
などと笑みすらこぼれる。
敢えて考えるのを止めて突き止めた事実を印象順に並び変えて、その上でイラストを描くよう推理を進めたらスッキリとした絵が描けた。謎は残っているが全容が分かった。考えがまっとまった。綺麗にだ。今まで混乱していたのが、嘘のようだ。
おおっ。
でも、残った謎は全く分からないんだけどな。それでも大きな進歩な気がするぞ。
そこで、
フーの、あの小憎らしい笑顔が脳裏に浮かんで苦笑い。
フム。ただし、これは推理でも、全容が掴めたに過ぎないのですよ。
と……。
てか、素人の僕を褒めろよ。頑張っただろ。頑張ったよな。クソが。
加えて、
トリックはどんなものなのかという事と、
もう一つ新たな大きな壁が眼前に立ちはだかってきた。
そうだ。
この事件で、もっとも難関とも思える、それが、だな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます