#03 羅列完了

 ふおお。


 さてと、次は何だろうな。


 などと考えてから無理矢理にも頭を切り替える。


 そうだな。次は、トラック運転手の事だろうか。


 いや、運転手自体は運が悪いが悪運が強い人という印象しかない。それよりも事故を起こしたトラックのタイヤにパチンコ玉が挟まっていなかった事の方が強く印象に残っている。つまり、トラックはパチンコ玉を踏んではいなかったのだ。うむむ。


 そうだな。今、改めて考えると、凄くおかしい。


 現場にはパチンコ玉が、沢山、在ったにも拘わらず、トラックのタイヤには、ただの一つのパチンコ玉も認められなかったのだ。無論、始めから路肩にパチンコ玉があったのならばタイヤにパチンコ玉が認められないのは至って自然な事だろう。


 しかし、ハウの言う、トリックにはなくてはならないものという発言を顧みれば。


 始めの始めから、路肩に在ったとは考えにくい。


 無論、絶対に始めから路肩になかったとは言い切れないが、それでも考えにくい。


 もしかしてだけど僕にそれを気づかせる為に宅配会社に行ったのか?


 無論、証言の裏付けをとるといった意味もあっただろうが、どうにも、あの現場では今更感が半端なかったのも事実だ。だからこそ、今、この事実に気づいた僕は思うのだ。敢えて、あの場所に行く事で今という時間を作ったのではあるまいかと。


 と、そこまで思考が繰り広げられたところで、またまたやっちまったよと苦笑い。


 考えない。考えない。と。


 また湯に頭をつけて、頭を強制的に切り変える。


 これで最後だ。最後は秀也から聞いた事件当夜の状況だな。秀也は、当夜、死んだ奈緒子に電話をかけていた。時間は午後11時47分。秀也が一正の車を止めたのが午後11時58分だから11分の間に奈緒子は、どこかに消えてしまったわけだ。


 いや、どこかに消えてしまったというよりは死んでしまったわけだ。


 付け加えておくが、公式で奈緒子がトラックに轢かれて死んだとされている時間が午前0時36分。そして、その12分前である午前0時24分には隣町のコンビニで一正の車が目撃され、その車中に奈緒子はいなかったという。うむむ。はふぅ。


 また、新たな疑問が頭に浮かんで考えそうにもなるが今はまだだと気を強く持つ。


 そして、


 全てを羅列し終えた僕は、一旦、瞳を閉じて大きく一つ深呼吸する。


 それこそ大きな仕事を、やり遂げた感で一杯になり感慨深くもなる。


 時計を見る。午後8時49分。うおっ、もう36分も入っているのか。僕は……。


 羅列の作業に熱中して、全然、気づかなかった。


 なんとなく、のぼせてる気がするのも、あながち勘違いじゃないな。


 兎に角。


 助言の一つ目での手順、その三に移行する時だ。


 また両の手ひらで、お湯をすくって顔を洗った。


 強くも。

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