#02 羅列
第一は、一正の車である赤いワポンRの事かな。
特に怪しいところはなかったのだが、一つ、小さな差異を見つけた。
それは、
助手席側に残されていた安全ピン。カー用品と純正装備で固められた車内にあって異質ともいえるもの。無論、どういった意味を持ち、どういった役割を果たしたのか、それは分からない。ただし、安全ピンが、今日という日で一番印象に残った。
そして、
ワポンRと言えば、警察主導で導かれたルミノール反応も気になる。
車周り、車内、どこからも血液反応がでなかったという事実がだ。無論、実際に車を目にしてルミノール反応に嘘偽りはないと確信した。血痕など、どこにもなかったし、人をはねたならばできるであろう、へこみや傷なども確認できなかった。
なぜなのだろうと考えた始めた時、フーのにこやかで柔和な笑顔が脳裏に浮かぶ。
あの小憎らしくも嫌らしい、それだ。
フムッ!
なぜだと考える前に、まずは出来事の羅列からですよ。よろしいか?
なぜだと考えてしまうから、そこから思考が進まなくなるのですよ。
そこで思考が絡まってしまい、悩んで、ですね。
ああ、そうだった。そうだな。……今は、何も考えずに事実だけを並べてみよう。
次に強く印象に残った事は、一正と秀也の関係。
秀也は現役の暴走族であり、奈緒子の元彼だという事。そして親衛隊を気取り、奈緒子に近づく男どもを片っ端から痛めつけていた。確認するまでもないが、その被害者に一正もいた。無論、これは捜査前から判明していた事実だが、とりあえず。
ここからが本番なのだが、
秀也の暴力に耐えきれなくなった一正が、秀也にレースを挑む。多分に勝ったら奈緒子から手を引けといった意味を込めて。その果て、ワポンRに乗る前に乗っていた一正の前の車が廃車になる。その際、彼は生死の境を、さ迷ったとも聞いた。
推測するにだが一正の秀也に対する憎しみは極限まで高まったのではあるまいか。
そこに、
秀也を止めてくれと奈緒子に懇願した一正がいて当の奈緒子は……、
拒否した、或いは秀也を正当化したかして憎しみが彼女に転嫁した可能性がある。
そこまでは考えた。でも、その先は、いや、今はまだやめておこう。
次は奈緒子が死んだ現場から500m手前に戻ったところにまかれたパチンコ玉。
その数は、おびただしく、それこそ掃いて集めなくはならないほどにあった。加えて無印の玉であり、わざわざ買ったものであった。トリック解明担当のハウに言わせれば玉は奈緒子の死に直接的には関係ないが、なくてはならないものだという。
なんとも分かるような分からないような玉虫色な解答だが、嘘偽りはないだろう。
と、ここで、またパチンコ玉には、どんな意味があったのだろうと考えてしまう。
いかん。
いかん。
と、大きく、がぶりを振ってから頭を切り替えて次の要素へと移る。
それでも切り替わらない脳に不甲斐なさを感じながらも顔を湯船へとつけて潜る。
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