Chapter17 三つの助言
#01 おもてなし、うらもなし
12月20日 午後6時02分。
…――それにしても僕には警戒心というものが足りないらしい。
自分でも不甲斐なくもなるが、どうにも僕という人間は、そうできているらしい。
だからこそホワイにも言われた目の前に答えがあるのに手放してしまうのだろう。
ホワイ嬢曰く、答えに風船を沢山つけて空に放ってしまうとだ。
一体、なんの話か。なに、ごく簡単な話だ。
今朝、下剤入りのモーニングを食べさせられた。にも拘わらず、今、出された飲食物を、なんの疑いも持たずに口にしてしまっていた。疑う事も忘れてだ。無論、熱がこもった秀也とのやり取りの話を聞かされたから夢中になっていたからとも言える。
加えて、
昼にカツ丼を食べてから、なにも口にしていなかったからこそ。
喉も渇いていたし、お腹はペコペコだった。
そういった背景もあっての事だと信じたい。
兎に角。
だからこそ自然に手が伸びてしまった。しかも、どこで調べたのか、いや、調べたというよりはホワイが読んで判断したんだろうな。ともかく僕の好きなものを眼前に並べられ、余計に警戒心が薄れてしまったのかもしれない。悔しいのだが。クソッ。
それでも、少しは疑う気持ちをもたないと、この先も続くゲームを戦い抜けない。
灰色探偵ダニットの面々との推理ゲームを。
てかっ、
ここで、おや? などと思わないで欲しい。
その件も含めて順を追って説明してゆくから、今は、さらっと流しておいてくれ。
兎に角。
口をつけてしまい申し訳ないと思いつつも、だからこそ残りは丁重にお返しした。
返すのが惜しい気がして目を閉じて口を歪め悔しくてグギギなどと口走りつつも。
食べたかったな、正直とだ。
「あれ、なんで残すの? お腹減ってるよね」
ハウが彼女に出されたミートソースがかかったパスタを口に入れ、もごもごする。
ゆっくりとフォークを立てて僕へと向けて。
「てかさ、一口しか食べてないじゃんよ。お腹減ってないのか?」
もぐもぐと口を動かすのを決して止めずに。
いかにも彼女らしく豪快に食べているのが、らしいなとか思う。
「美味ぇ」
と……。
一方、ホワイも同じくミートソースのようなものがかったパスタをフォークに突き刺して、くるくるっと器用にまとめ、しおらしく小さな口へと運ぶ。美味し、と、口元を手で隠してから、お父様、こちらはボロネーゼですか。むぐむぐと言い放つ。
というかだな。やっぱりイヤミなんだよな?
僕にはペペロンチーノ、ハウにはミートソース、そうしてホワイにはボロネーゼ。
つまり、
3人とも夕食とも言えるパスタを振る舞われたわけだが、一人一人、違う種類のスパゲッティを提供してきたのだ。三人とも同じもので済ますのではなく、手間を惜しまず、3人とも、それぞれが好むであろうものをチョイスして作ってきたわけだ。
このフーという性悪探偵はな。やっぱりイヤミの類いなんだろ?
「やれやれ、本当に思い違いがはなはだしいですね。せっかくのおもてなしをです」
などと、フーが聞こえるような大きな声で独りごちたが僕は決して信じなかった。
あり得ないとばかりにもだ。
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