#07 モストなロスト事件

 まあ、ハウやホワイはともかく、電話に出なかったというのは別の意味で当然なのかもしれない。もし仮に奈緒子が、この時点で生きていて秀也を嫌っていなくても電話には出ないだろう。それこそ、ちょっと前に罵倒して切っているのだから。


 また、あいつか、という話にもなる。奈緒子の中で。


 嫌っていれば尚更とも言える。


 ただし、


 この時点で奈緒子が死んでいた可能性もあるから一概にそうとも言い切れないが。


「でな。……嫌な予感が頭に渦巻いていたから、どうしても諦めきれない俺ッちは、もう一度、電話したんだ。そしたら、何が起こったと思う? 信じられねぇ事だ」


 フムッ。


「奈緒子が電話に出た。いや、それは問題ねぇ。そうじゃねぇ。会話の内容だ。一正が消えた。いきなり消え失せたの。今どこにいるかも分からないわ。寒い。怖い」


 なんて奈緒子が、震え、掠れた声で言ってきたんだ。


 まるで死人のそれように冷たくも重苦しい口調でな。


 俺ッちだって、人間なんだよ。


 思わず怖くなっちまってブルっちまってた。スマホを手から落としそうになった。


 消えるってなんだよ、ってな具合にな。怖かったよ。


 それでも、いや、だからこそ奈緒子に危険が迫ってるなんて思った。だから気を取り直した。そんで改めて奈緒子に状況を整理させようとスマホを耳にあてて話しかけたら……、時すで遅しだ。電話が切れてた。マジかよって感じだな。信じるか?


 フムッ!


「人体蒸発事件ですか。有名なところではディビット・ラング氏消失事件でしょうか。詳しくは省きますが、子供の目の前で父親が煙りに包まれ消え失せた事件です」


 でも事件の真相は小説からの転用だったんですがね。


 実のところ創作だったというわけなのですよ。フム。


「お父様、それは古いお話ですわ。私は、ネットで良く聞くパラレルワールドに紛れ込んだ、お話に近いかとも感じました。ドキドキの展開で心が躍っています」


 ねぇ? ハウ。そうでしょ? あなたは、どう思う?


「オカルト、都市伝説、興味な~し。それよりも数学の参考書でも読んでた方が100倍、面白い。もちろん勉強なんて嫌いだけど、オカルッチックな話よかはね」


 とハウは、そっぽを向いてしまい、口笛を吹き出す。


 例によって、翼を下さいのジャマイカヴァージョン。


 とにかく秀也の話を聞いて三種三様なる反応を示す。


 実のところ、この話は、トリックにも拘わってくるもので一番、話を聞かねばならぬはハウだったわけなのだが、今はまだとだけ。ともかくディビット・ラング氏消失事件やパラレルワールドの話をしても意味がないので割愛して前に進もう。


 うむっ。

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