#06 無敵で素敵なハウ

「別に話しにくいなんてねぇよ。むしろ聞いて欲しいくれぇだ。ただな。信じてもらえるか、それが心配なんだ。今、考えてみても俺ッちですら信じられねぇからな」


 秀也は、


 タバコを指で弾いて捨て去る。


「信じられない……、ですか。フムッ。興味深い。なにが信じられないのですか?」


「俺ッちはオカルトや都市伝説なんて信じないんだが、あの夜、奈緒子がいないと分かったあと、かけた電話で、それは起こったんだ。今、考えても怖ぇんだが」


 なぬを?


 オカルトと聞いてホワイの瞳が潤む。期待に満ちて。


 耳がピーンという変な音を立ててウサギのよう立つ。


 変なスイッチが入ってしまったようだ。ホワイ嬢の。


「あらあら白のアネモネですわ」


 と笑む。


 その言葉を聞いて、なんとなく花言葉の意味を悟った秀也の顔が、また赤くなる。


 いや、多分、勘違いしている。


 勘違いの極みだ。目を覚ませ。


 というか、ずっと思ってたけど奈緒子はどうなった。親衛隊なんて言ってたのに。もしかして秀也は惚れやすいのか。というか、ある意味でハウよりも始末が悪いホワイに惚れるのは危険だぞ。むしろ青酸カリをジョッキで一気飲みするようなもの。


 いいのか、本当に? 死ぬぞ?


 必死だ。まさに、どちらもな。


 兎に角、


 フーはオカルトと聞いてしまって逆に興味を失ってしまったようだ。


 それでも何気なくも、続けて下さい、と言える彼は、やっぱり凄い。


 無碍に言葉を遮らないのは、やはりフーという人間が色眼鏡をかけていないからなんだろう。これが、僕だったら落胆の表情でも浮かべて、オカルトですか、くらいでも言ってしまうだろう。そんな言葉すらも出てこないのは素直に尊敬できる。


 促された秀也は、言葉を紡ぐ。


 俺ッちは奈緒子がいなくなって、すぐに電話をした。


「電話はしたけど奈緒子は出なかった。いや、追っかけっこの時、出てくれたのが奇跡なくれぇだ。基本、出ないからな。俺ッちは嫌われていたんだよ。哀しいがな」


 いや、哀しくないぞ。当然だ。


 秀也がしてきた事を考えれば、当然な流れなんだよ。


 むしろ続く言葉でハウがのたまった事の方が驚きだ。


 そうだ。


 僕を車の中に放り込んで戻ってきたハウが予想できていたと、こう言ったわけだ。


 てかさ。


「嫌われていたのは普通に分かる。当たり前っちゃ当たり前だよね。哀しくはない」


 にべもなく苦言を呈するハウに苦笑いしかない秀也。


 よく、そんな事が言えるな。乱暴者の秀也にさ。まあ、ある意味で尊敬できるが。


 対して、


 ハウの隣で両手を体の前で組み静かに微笑むホワイ。


 期待に満ちて潤んだ瞳で……。

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