#02 喪失
……CVさんからの書き込みが続く。ゆっくりと。
>闇が深い。その意味は山口さん、あなたが一番分かっているのだとそう思います。むしろ、あなたが山口堅太さんだからこそ……、ともかく、これで、お別れです。
さようなら。無事に事件が解決する事を心から祈っております。
と書き込まれたわけではないが、そう書き込まれてしまったような気にもなった。
唯一の味方であるCVさんに裏切られたようにも思えてしまう。
そして、
いきなりの別れで、一気に力が抜けて肩を落とす。
大暴露大会で精神力を削られたところに、こんなコメントをもらったからこそだ。
肩肘を張って絶対に事件を解決する、と今まで強張っていた気持ちの糸が切れる。
引っ張られてピーンと張っていた輪ゴムが、遂に引っ張る力に負け、切れるよう。
ゴムの遊びが少なかったからこそ、いきなり強い力で引っ張られ、切れ弾け飛ぶ。
切れれば、そのあとは早い。
僕の脆い精神が崩れるのは。
マジか。
マジでか。マジかよ。ボクは、これから、一体どうすればイイ?
絶望という言葉があり絶句という表現が適切で絶対にないと思えた状況になった。
CVさんに絶交されるというあり得ない結果にだ。
スマホが指の間から零れて落ちそうになる。なんとか指に力を込めてしのぐ。それでも如何ともしがたい空しさが、僕を支配して、そのまま膝から崩れ落ちそうにもなる。ここまで灰色探偵ダニットと付き合えてきたのはCVさんがいたからこそ。
無論、彼なのか、彼女なのかすらも分からないネット上での付き合いでしかない。
浅い付き合いと言ってしまえば、確かにそうなのかも知れない。
それでも喪失感が半端ない。
たった一人の味方だったからこそ。後にも先にも。
味方が消え失せてしまったという空虚感が、もやもやと後から後から湧いてくる。
なにがあったんだろう。書き込みから察するに、どうしようもない事情ができてしまった事は分かる。分かるが、黒いブラウン・マジェスカ以外、詳しく書かれなかったこそ気になって仕方がない。いや、むしろ、気にしても仕方がないのか。
僕には、どうしようもない。
多分、もうCVさんからの連絡は……、こないと考えた方が自分の為なんだろう。
マジか。
ふうっ。
と大きなため息を吐き出す。
空を見上げて虚空で円を描く茶色いトビを眺める。
一方で、
スマホを右手に持ち、立ち尽くす僕に対して……、
「フム。山口君、どうしました? 何か問題でも?」
フーが語りかけてくる。優しくも思える口調でだ。
無論、優しさなどではない。
むしろ、この先、僕がゲームを続けられなくなる可能性を感じての声かけ。確かに奈緒子の父親に頼まれて、この事件を解決する事を請け負った。依頼料も払ったし、ここまでのヒント料も決して安いものではない。それでも拭えない大きな虚脱感。
思い知る。いつの間にか、CVさんの正論は、絶対的な支えになっていたんだと。
繰り返すが、CVさんも素人。だからCVさんの正論を聞けば、もしかしたら僕でもやれるのかもしれないと思わせてもらえていたのだ。つまり僕はとても大きなものを失ったわけだ。だからフーの言葉に応えず、力なく笑って、がぶりを振る。
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