#03 真剣に遊ぶ

「もしかして、ですが。ここでゲーム終了するおつもりですか?」


 うん。そうか。そうだな。……それもいいかもな。


 同じ素人であるCVさんも離脱したし僕なんかがここまで来れただけでも奇跡だ。


 闇が深いとも忠告されたし、その闇が僕に襲いかかってこないという保証もない。


 そうだ。仕方がない。仕方がないのかもしれない。


 もう、僕には味方がいないのだから。どこにもだ。


 いまだに口を開く気になれない僕は、静かにうなづき、応える。


 うん。仕方がないんだ、と。


「フム。そうですか。よろしい。それも、また結果」


 無言ながらも応えを感じ取ったフーは乾いた空を見上げ、またトビを目で追う。重苦しい空気が流れ込んでくる。ハウとホワイも黙ったまま。推理ゲームにおいて部外者な秀也も空気を読んでか、目を閉じている。いや、秀也は単なる便乗だろう。


 ホワイがここにいるからこそじっと待っているだけに過ぎない。


 彼女を気に入っていたからな。まあ、それも今になっては、どうでもいい事だが。


 兎に角。


 静かな時が過ぎ去っていく。


 フーが静かに目を閉じてから、ゆっくりと続ける。


「フム。よろしい。そうですね。ここから先に語る事は、ひとり言として捉えて聞いて頂けるとありがたいのですが、少々、付き合ってもらえますか、山口君?」


 僕は、また無言でうなづく。


 もう、なんでもいいさ。なんでも。奈緒子の父親には悪いが。もうダメなんだ。


「そうですね。先ほど、わたくしが言った言葉を覚えていますか。遊びを真剣に愉しめないものは一切何も為せないというものです。あれには裏の意味もあるのです」


 裏の意味があるだと。なんだ、それは。……いや、それすらも、どうでもいいか。


 ただ、ここまできて意味深な事を言われてしまい恨めくもなる。


 聞きたくなっている自分がいるからだ。本当に性悪だな。灰色探偵の面々は……。


 最後の最後までな。アハハ。


 また目を閉じて虚空を仰ぐ。


 フーが、おもむろに続ける。


「人は何かを為す為に努力をしますよね。しかし、ずっと努力し続けるのはしんどい」


 ああ、そうだな。多分、今の僕は、まさにそんな状況だろうな。


 ずっと気持ちを張り詰めて推理ゲームで渡り合って事件の解決を願っていた僕は。


「ただ、しんどいからこそ休憩をとる。休憩とらずに努力を続けると間違いなく倒れるからです。つまり、生きる事においての休憩とは、すなわち遊びなんですよ」


 フーの奴、珍しく饒舌だな。


 でも、それもどうでもいい。


 言いたい事があるならば、さっさと言ってくれ。そして、さよならだ。永遠にな。


「どうです? 遊びの重要性が分かりましたか? だからこそ遊びに真剣になれない人間に何かを為す事など到底不可能なのです。全力で努力を続け、全力で休む」


 これこそが重要なんですよ。


「そして、今の山口君に必要なのは遊びなんだと、わたくしは思うのです。フムッ」


 遊びか。


 そういえば推理ゲームこそ遊びだって言ってたな、フーの奴は。


 確かに真剣に遊べば……、事件の解決も出来るのかもしれない。


 でも、もう遊ぶ気力もないよ。情けない事にもな。


「喝ッ!」


 ビッシっという痛げな音を立てて僕の肩が、柔らかいもので思いっきり叩かれる。


 痛ッ!!


 というか、柔らかいクセに嫌に痛いな。なんだよ?


 一体、誰だ? 僕の背後に回って肩を叩いたのは?

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