#09 魅惑的なタネ明かし

 悩もうが、苦しもうが、或いは愉しもうが、幸せに浸ろうが、時間は粛々と進む。


 決して、


 人生という名の時計の針が止まる事はない。


 死を迎えて人生の幕を閉じるその時までは。


 針が刻む一瞬(とき)はヒマを潰す事で積み重なるものに過ぎないのだとばかり。


 そして、続ける。続いてゆく。悠久の時。


 だから。だからこそだと針が生み出す音がヒマを潰す事を全力で愉しめ、と叫び。


 兎に角、


 僕は、ハウの言葉で、ようやく我に返った。


 しかしながら同時に今までの話を聞いて、トリックとされたものは、むしろ心理操作の類いではないのかとも感じていた。ホワイの領分だと。だから心理操作的な味付けをしたであろうホワイの手柄ではないのかとだ。決してハウの出番じゃないと。


 そこで、


 微笑む、当のホワイがハウに耳打ちする。


「そっか。心理誘導なんて事を考えてるんね。違うよ。確かに次にどこに行きたがるかを考えた場合、心を読む。だからコース作りは心理誘導が為せるとも言えるよね」


 でもね。


「その場合、誘導されてる感が半端ないの」


 まあ、確かに、そうだわな。誘導されている感は拭えないだろうな。


 細心の注意を払い、誘導されている感を極力、排除したとしてもな。


 うむむ。


「だから誘導されているのではなく、自分で選んで進んでいると思わせる必要があるわけ。そこにトリックを仕組んだんだわさ。全然、分からなかったでしょ?」


 トリックが。そうなのか?


「朝、下剤入りモーニングを食べたよね。で、殺害現場で、魔女っ子戦隊出動ってあったよね。あれって意味のない行動だったと思う? いや、思ってたでしょ?」


 いやいや、意味なんかあったのか? あのアホらし過ぎるものにさ。


 マジか。


「実は、あれこそトリックの正体なんだわさ。ふふん。よろしくて?」


 ずいっとといった感じで顎を突き出して、上から目線で僕を見下ろしてくるハウ。


 その態度は、この上なく鬱陶しいが、この際、それはスルーしよう。


 ハンバーガー屋で車に乗ったまま注文して商品を受け取るが如くだ。


 ブレイクスルー。あ、違った。ドライブスルーだった。


 いや、それよりも、あの意味がないと思われる行為がトリックの正体だと言われてしまって混乱してくる。ブレイクスルーだとかドライブスルーだなんて意味のない下らない事を考えてしまうくらい。無論、どんな意味が在ったのだと考えてもみる。


 だがしかし、まったくもって分からない。


 むしろ考えれば考えるほど深みにはまってしまって、困惑してくる。


「混乱しているでしょ。じゃ、丁寧に順を追って説明してあげるわさ」


 見下ろしたまま、生意気にも、右口角を、にやりと上げて言い放つ。


 ウザさがどんどんパワーアップしてくる。


 どうやら自分が組んだトリックのタネを他人に明かすという行為はハウという少女にとって、創作者が書き上げた小説や描き上げたイラストを他人に見てもらうのと同義なんだろう。しかも己が技術に強い自信があるからこそ余計にウザくなるのだ。


 凄いだろ。凄ぇよな。と図らずも同意を強くも求めるように語ってしまうからだ。


 ぐぎぎ。


 と、歯がみをしつつもトリックの正体に心を奪われている僕は黙って続きを待つ。


「朝の下剤。あれは今日の捜査の中でトイレに行かせない為の布石。滞在時間と巡る順番をあらかじめ決めていたから途中でトイレ休憩なんて挟まれたらね。OK?」


 嗚呼ッ。


 そうか。


 あらかじめコースは決まってるからこそ。


 回る順番があるからこそトイレを探して、さ迷うなどといったアクシデントが挟まれると全てが台無しになる。無論、滞在時間も決まっているからこそトイレなんかで消費する時間もない。言うまでもないがトイレ休憩などコースには組み込めない。


 それを組み込めば誘導されている感が半端なくなりトリックが僕にバレるからだ。

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