#10 聞けば

 当然、いきなり次はトイレ休憩にでもしよっかなんて、わざとらしくて言えない。


 いや、それとなくトイレに行きたいからトイレ休憩にしよ、なんて誤魔化しても。


 確かに、それらを自然に言えばバレない可能性もある。


 卓越した演技を交えてだ。


 だからこそ可能性としては、あるにはある。が、それは確率論での話。もし避けられるリスクならば避けた方がトリックとしては上等。だから、朝、下剤入りのモーニングを食べさせてトイレに籠もらせ全てを吐き出させたあとに捜査を始めたのか。


 なるほどな、良く出来ている。うむむっ。


「納得したようだね。じゃ、次は魔女っ子戦隊出動を説明するよッ!」


 ハウは不死家のベコちゃんっぽい顔で舌を出し、視線を右に泳がす。


 ウザさ1000倍アップ。


 当社比。


「あの時、箒を出して柄にまたがって柄を軽く左右に振ってたよね。覚えてるかな」


 僕は無言のままうなづく。


「うん。覚えてるっぽいね。でね。あの場所に見つかっちゃダメな物があったんだ」


 見つかっちゃダメなもの?


「まあ、その時はだけどさ」


 その時、その場に在っていけないものが、なんなのかは分からない。


 けど一つ分かる事がある。


 それは、


 観光とも思えるコースを、そうとは思わせずに巡らせる為、柄にまたがり、柄を振る事で、その時、見つかっちゃいけない物を掃いて隠した、と、そういうわけか。路上を掃き、不都合なものを路肩から路傍へ、そして場外に、無事、退場させた。


 ……と。


 クソが!


 そういう事だったのかッ。なるほど、と唸るしかない。


 無論、ハウだけが、魔女っ子演出してもわざとらしい。


 だから、


 3人揃って悪ノリして隠すべきブツを掃いて隠すという行為を上手く誤魔化した。


 なるほどな。多分だが、その隠すべきものはアクシデント的なものだろう。しかしながら事前にアクシデントが起こる可能性も考えていたからこそ対応できるトリックも練ってあった。そして、それが、あの魔女っ子戦隊出動だったというわけだ。


 裏を返せば、もしも、あの場で僕が隠すべきものを目にしていれば、


 この捜査は、全てが仕組まれ誘導されていたのだと気づけたという事にもなるな。


 しかし、トリックだと言う事の意味が、よく分かった。


 いやいや、逆にまったく分からなかった。


 気づけもしなかった。トリックを構成しているピースの一片にもな。


 はふぅ。


 ある意味で大暴露大会となった今の空気に耐えられず思わず大きく息を吐き出す。


 色んな意味の疲れが、どっと両肩にのしかかってきた。


 はふぅ。


 無論、朝の下剤も魔女っ子戦隊出動も間違いなくトリックであったからこそ余計に身体が重苦しくも感じられた。それにしても、その時、見つかってはいけない物とは一体、なんだったのか。いや、聞くまい。なぜならば聞けばこう返ってくるからだ。


 ヒントの請求ですかとだ。


 無言で灰色探偵の面々の顔色をうかがうと奴らの顔にはやはりそう書いてあった。


 ヒントの請求ですか、と。


 はふぅ。

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