#08 遊びこそ肝要

 その次は、どこだったか?


 ああ、そうだ。川村一正の所にいって彼を追い詰めエンディングになると勘違いしたんだった。つまり、今のここというわけだ。もう一度、確認だ。頭の中にある小春市の略式な地図に打った点に順を追って矢印を付ける。あれ、やっぱりそうだ。


 見事なる円ができあがる。


 無論、どうしても一正の家に打った点だけが、仲間はずれにはなる。


 しかし、それ以外の点を線で結ぶと不格好ながらも円ができあがる。


 まるでツアー旅行での旅館出発からの観光地を巡って、最後に、再び泊まる旅館に戻ってくる観光コースのようなものが出来上がるのだ。つまり、僕は、今日、捜査に必要な場所を、とても合理的に一切の無駄がなく回らされていたわけだ。


 そうか。


 だからこそ、……いくつか例外はあるが、


 基本的に次に行く場所を、僕が灰色探偵に委ねるように仕向けられていたわけか。


 無論、例外とて計算の内とばかりにホワイの読心術を使ってコースに組み込んで。


 舌打ちもでない。マジかと悔しくもなる。


 彼らは僕から事件の概要を聞いた時点で事件を解いていたと言った。


 あれは誇張でもなく脚色でもなく、本当に解いてしまっていたんだ。


 だからこそ、あらかじめ回る順番を決め、そこに滞在する時間をも決め、無駄なく全てを回れるようコースを組んでいた。そして、僕は、そのコースをなぞった。まったくもって気づかない内に。それこそがハウが言っていた絶品スープなのだろう。


 まあ、僕的には少々語弊もあるが、それでも、もはや神業以外の何ものでもない。


 クソッ! そういう事か。


 彼らに事件を依頼した時、ホワイがオレンジのユリを持ち出して、事件を前に、依頼者を前に、いつでも真摯な心で向き合っていますと言っていた。続けてフーも推理ゲームが人生の愉しみである自分達は常に偏見の目がつきまとうとも……、でもな。


 さしものの僕だって、こう思ってしまう。遊びじゃねぇんだ、とな。


 とッ!?


「いえ。わたくし達にとっては遊びですよ。遊びであるからこそ真剣に興じる必要がある。十全に愉しむ為。敢えて、そう申しておきましょうか。誤解を恐れずにね」


 フムッ。


 と今まで黙って様子をうかがっていたフーが、おもむろに口を挟む。


 ドキッと胸が一つ脈打つ。


 いきなり、なんなんだよ。


 青年の主張か、ロマンスグレーなフーが。


「無論、遊びを真剣に愉しめない者は一切何も為せない。人生は遊びなのですから」


 それを言い放った時のフーの顔は珍しくも真剣で真っ正面を毅然と見据えていた。


 僕は、その迫力に気圧されて、不覚にも一歩、後ずさってしまった。


 その後、


 他にも何か言い訳があるならば聞くとばかりに言葉を待ったが、なにもなかった。


 そして、


 場に沈黙という名のカーテンが降りてきて冬の乾いた空を静かに彩った。その厳かな間は、ある程度の力を持って口を開くなと言う無言のプレッシャーを与えてきた。仕方なく、両目を閉じて、今まで起こった事を頭の中で反芻した。そして……、


「とにかくハウちゃんの凄さは分かった?」


 とハウの元気な声で堅い沈黙が破られる。


 派手に。

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