#03 手を汚さない
ここだ。
秀也や、その周りの人間しか知らない獣道とも言える抜け道を使い、先回りする事を選んだのだ。そののち先回りが成功。遂に一正を止める。ここが概要でも話した午後11時58分だったわけだ。それからは今まで聞いた事の繰り返しだった。
僕は開いていたメモ帳をパタンという軽妙な音を立ててから閉じる。
そうだな。もう少しだけ補足しておこうか。秀也的には一正が直接的な暴力に訴える人間であれば、まだ救われると考えている。しかし、一正は決して自分の手を汚さない。闇から闇へと狂気を温厚と共に屠り去るような人間であると考えている。
だからこそ、怖いのだと言う。
つまり、
カッターナイフで脅された悪友も、それで一正が傷つけたと分かるような事はしないのだそうだ。むしろ、そのナイフが、いつの間にか秀也の下へと忍び込まされ、どういった計算を使うのかは分からないが、すわ秀也に罪を被せてくるのだと。
確かに、そんな事が僕の身へと降りかかったら、
一正という人間が心底、怖くて仕方がなくなる。
だからこそ、逆に秀也は奈緒子に危険が迫っていると、そう思い込んだのだろう。
もしかしたら、秀也が感じていた嫌な予感の正体も、そこに在るのかもしれない。
「フムッ」
黙って静かに話を聞いていたフーが、お決まりのフレーズで答える。
「なるほど。聞いていた通りですね。そこまでは奈緒子さんも確かに一正君のワポンRに同乗していたと。そして先回りをした時にはいなかったわけですね。よろしい」
これは確認作業だな。うん。僕も慣れてきたぞ。
捜査というものが、少しだけ分かった気がする。
「ああ。俺ッちが車道のど真ん中にバイクを止めて、やつの車を止めた時には、もう奈緒子はいなかった。もちろん助手席にも変わりはなかった。だから諦めたんだよ」
一正を、そのまま解放しちまったってわけだな。
今考えると口惜しいんだがよ。
でも。じゃぁ。と僕の頭に疑問が浮かんでくる。
「さっきカーチェイスの最中、奈緒子さんに電話したと話していましたよね。だったら止めて彼女が居ないと分かった時、なぜ電話をしようと思わなかったんです?」
矢継ぎ早にも質問を繰り出す。
次々と口から滑り出すように。
「それとも電話をしたんですか? 彼女が居ないと分かった時にです」
ナイス僕。久しぶりのヒット。
いや、当然の疑問か。むしろ思い浮かばない方がおかしいかもだな。
僕は喜んだ手前、バツが悪くなり、後ろ頭を乱暴にも、かきしだく。
ただし、
「フム。そうですね。山口君の言う通りです。もし嫌な予感がしていたならば彼女が居ないと分かった時、すぐに安否を確認するはずです。そこはどうです? 秀也君」
と、フーがフォローのようなものをしてくれた。
少しだけでも嬉しかったのは絶対に秘密だがな。
無論、素人の推理を愉しむ彼らしい発言だと言えば、それで終わる事なのだから。
対して、
秀也は黙ってしまって静かにもうつむいていた。
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