#04 バランスを崩す
…――秀也は、タバコの紫煙を吐き出して空を仰いで、一旦、場が静まりかえる。
凜とした空気が流れ込む。
冬の寒さも手伝ってか背筋が冷たくなってしまい震えもくる。
そして、
沈黙に耐えきれず、両人差し指を使って、お互いの外周をなぞりクルクルと回す。
相変わらず考えが読めない笑顔で、秀也を見つめ続けるフー。
黙ったままで、動かない。
一切だ。
色々とアレな僕であろうと分かる。今のフーは、何かを待っている、或いは何かを引き出したいと虎視眈々とタイミングを計っているとだ。それが分かっているのか、相対する秀也も、まったく動き出そうとしない。まるで相撲でのがっぷり四つ。
そして、
一気に押し出そうと秀也が力業で動き出す。
「まあ、それ以上は、なにもねぇよ。消えな」
うぜぇ。
と……。
フーが、黙して語り出さなかったからなのか、秀也の方から会話を打ち切られる。
そののちタバコを指で弾き捨ててから寿司屋に帰ろうとする。
スズメの集団が、電線から一斉に飛び立つ。
フーは、一つ大きな息を抜けるように吐く。
ゆっくりと青い瞳を開け空に溶け込ませる。
フムッ。
「秀也くん。これは君の疑いを晴らす為に必要な事なんですよ」
静かに、ただ静かに、ゆっくりと吐き出す。
背後を見せ去ろうしていた秀也の右眉尻が微かに上下に動く。
無論、秀也も止まらない。すぐに右腕をあげて、じゃあな、とばかりに止まった歩を、再び、進ませる。それでも一切の動揺を見せないフー。それどころか、被っていたハットのつばを右手で摘まんでから、つばを下へとずらす。そして……、
お決まりの、フムと一言。
そして、
「すでに事故は事件と成っております。しかしながら犯人の特定は済んでいません。仮に秀也くんが、あの事故現場にいたとするならば。いや、仮にではないですね」
いまだに犯人が特定されていないとは、敢えてでの嘘だろう。
灰色探偵ダニット、……彼らの中では一正こそが犯人だと断定しているのだから。
またもや歩が止まる秀也。
「先ほど確認の為にと聞いた奈緒子さんが一正くんの車に乗っていたという事実を知っている以上、秀也くんにも奈緒子さんを殺せる可能性が十二分にある。フムッ!」
そうか。
ここで使う為に……、なるほど。さすがだ。
歩が止まってしまっていた秀也は、それでも背を向けたまま。しかしながら思うところがあるのか、その場を動こうとしない。再度、膠着する場。ジリジリとひりつくような空気感が、今度は逆に寒さすらも凌駕してしまって暑ささえ感じる。
思わず手に汗を握って、握った拳が湿ってくる。力も籠もる。
フーからの圧が、テンパランスの英訳を持つ節制を凌駕する。
正位置では、献身の意味を持つタロットカードでの節制をだ。
無論、逆位置でも消費と消耗、そして生活の乱れという意味を持つ、そのカード。
つまり、
今の秀也を端的に示すカードこそテンパランスというわけだ。
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