#03 開幕
「お、おう。なんだよ?」
と、秀也が気圧される。
マジか。
「事件当夜、川村くんの運転する車を追いかけ回していたらしいですが、間違いなく奈緒子さんが川村くんの車に乗っていたんですね。相違は、ないでしょうか?」
あれっ?
ちょっと待て。それを聞くのか。なぜ?
今更だろうが。それは。
無論、秀也が気圧されたのにも驚いた。
それよりも僕が聞こうとしていた事ではない質問が飛びだして余計にびっくりした。しかも確認の類いでしかないという事は、僕にも分かった。回りくどいとしか思えない。時間が押しているのであろう秀也に改めて問うべき事なのかとさえ考えた。
しかし、
これは灰色探偵の常套手段であり、つまり策の始まりだったわけだ。
始まるよ、さあ、開幕だッ。灰色劇場。
とハウが、言葉にせず目で訴えてくる。
僕は一つ息をのむ。どうなるのか、と。
単純な人間であろう秀也は、まんまと乗ってしまう。
「ああ。乗ってたよ。間違いなくな。乗ってなければ追い回す必要もねぇだろう。というか、この話も警察に死ぬほど聞かれたよ。いまさらだろうが。それだけか?」
フーは、
「フム。よろしい。……では、秀也くんと一正くんの関係をお聞かせ願いますか?」
秀也の質問には応えず、己が知りたい事を繰り出す。
でも、それも今さらじゃないか、どうしたんだ、フーらしくもない。
しかし、
途端ッ、
秀也の表情が曇って忌々しそうにつばを吐き捨てる。
「確かに、あんたらに事件を解決できるだけの力があるならば解決して欲しいって思ってんよ。けどな。前に話した通りの関係に過ぎねぇよ。それ以上はなにもねぇ」
前とは午前中の事だな。
奈緒子に言い寄る男たちに暴力を振るっていた、その中に一正がいたに過ぎない。
という意味なのだろう。
やっぱり、今さらだな。
しかし、
フーは、
「フムッ」
と、一旦、間をとって、互いが落ち着く時間を作る。
いや、なにかを待っているのか。そうとも思える間。
やおら秀也が口を開く。
「それにな。一正と俺の関係はうんざりするほど警察に聞かれたよ。同じ事を何度も何度も言わされた。その気持ちがテメェらに分かるか? もう考えたくもねぇ」
と吐き捨て、新しいタバコを取り出して火をつける。
嫌な事を思い出して気持ちを切り替える為にタバコを吸い始めたようだ。僕にも同じ経験があるから良く分かる。さて、このあと、フーは、どういった手腕で秀也から話を聞き出すのか。すわ一正の殺害動機を固めるというのか。と手に汗を握った。
フムッ。
それほど大した手品ではないのですがね、とフーが、ほくそ笑んだ。
では続けましょうかと。
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