Chapter14 動機固め

#01 怒り心頭

12月20日 午後3時45分。


 …――あり得ない。いや、あり得てはならないのだ。


 決して。


 こんなにも簡単に、しかも連続してだ。


 何の話かは、ご想像にお任せする。しかしながら悔しくて仕方がないのだ。口惜しくて仕方がないのだ。無論、タイヤを調べにいった時も策にハメられてヒントを消費した。その上で、またもや、やらかした。つくづく秀也という人間が恨めしい。


 兎に角。


 信じられない事の十数分前から始まる。


 目の前には不機嫌そうな顔つきの秀也。


 チッと舌打ちさえする。


「だから、なんなんだよ。まだ聞きてぇ事があんのか」


 タバコに火をつけて、睨み付けてくる。


 午前中に会った時、彼は協力的であった。何があったのか。いや、何かがあったというよりも単にスケジュール的な問題とキレやすいというヤンキーの特性のせいであろう。つまり、今は、秀也にとっては憩いとなる貴重な休憩時間だという事。


 そんな時間に、再び、アポイントメントもせずに現れた僕らが憎らしいのだろう。


 そこにヤンキーの特性が重なってしまったという事。


「てか、明日じゃダメなのかよ、おう?」


 そうか。


 上記の二つに加えて、何か用事があったという事か。


 休憩時間を使った何らかが在るからこそ怒っている。


 多分だが、彼の言動から察するに、だ。


 また髪型を崩すかのように乱暴にも頭をかきしだく。


 さあ、どうするべきか。ああ、もうッ。


 聞き出す事は分かっている。一正に対する暴力を止めて欲しいと奈緒子から言われていなかったかという事だけ。分かってはいるのだ。いるのだが、僕は、恨めしくなり、フー達へと視線を移す。相変わらず、のほほんとして、のんびり構える彼ら。


 クソ。こんなに怒っている相手に対して僕だけでなんとかしろなんて無茶過ぎる。


 しかも相手はヤンキーだぞ。クソがッ!


 ソーダとコーラを使って、美味しいお茶漬けを作れと言われているようなものだ。


 気圧されてしまい、言葉が出てこない。


 助けを求めるようフーを見つめ続ける。


 しかし、


 ここで何気なくでも視線を移したのがいけなかった。


 秀也は、


「てかよ。後ろの探偵がどうかしたかよ。お前に聞きたい事があってきたんじゃねぇの? いい加減、ハッキリしろや。でっかい声で、言いたい事、言ってみろや」


 と僕にも聞こえるような大きな舌打ち、つばを吐く。


 不味いぞ。どうやら火に油を注いでしまったようだ。


 というか、そうやって凄むから言いたい事も言えないんだろうが。なんて言ってしまったら余計に怒るんだろうな。そういった人種だ、秀也は。とはいえども、このまま、だんまりでも更に怒るだろう。だから、どもらないように気を付けて口を開く。

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