#09 マジか
「大丈夫です。分かってますって。しっかりとね。行きましょう、エンディングへ」
急かすよう先を促す。
苦笑いが止まらないフー。眉頭を寄せて作ったしわが深まる。
「フムッ。山口君は、勘違いをしているようですね。本当に大丈夫なのでしょうか」
だからOKだって言ってるじゃないか。
しつこいな。分かってますって。もう。
川村一正に会ってトリッキーな策で追い詰めるんでしょうが。僕にヒント料を支払わせたような策で。無論、僕が策を弄せるわけはない。だからこそ3回も残っているヒント料の内、2回分を使って、策の構築と実行を彼らに頼めばオールオッケー。
運転席に沈み、いそいそとセルを回す。
ドルルとロックンロールな曲が始まる。
さあっ。
「早く行きましょうよ」
と僕は窓から身を乗り出して言い放つ。
ドアの縁に右腕を乗せて意気揚々とだ。
「フム。今一度、確認なのですが、今から行く場所はどこになりますか? 山口君」
「川村一正の所ですよね。分かってます」
とニカッという音が似合う笑い顔な僕。
フーは右上に視線を移して、困った顔。
「やれやれだ。確認して良かった。違いますよ。一正くんの所ではない。秀也くんの所に行くのです。動機を固める作業は外堀から、じっくりと埋めていくわけです」
顔を歪めてしまう僕。
ほへっ?
野々村秀也だって。なぜ。なにゆえに?
というか、川村一正じゃなかったのか。
マジかよぉぉぉッ!!
クライマックスな男というわけじゃなかったのか。畜生。まだエンドロールまでは遠いのか。こいつらとの付き合いは、まだまだ続くというのか。いや、もう嫌だ、正直。むしろ1秒たりとも、こいつら性悪と同じ空間で同じ空気を吸いたくない。
途端に、
僕の顔は青ざめて冷や汗すら噴き出た。
そんな気持ちが、早とちりを誘発したんだろうな。お間抜け過ぎる早とちりをだ。
落ち着けとばかり大きく深呼吸をする。
息を吐く。ゆっくりと吐いてから吸う。
何度か繰り返す内に静かにも落ち着く。
うむっ。
そうだ。
冷静に考えれば秀也に会いに行くのは当然なのかもしれない。
秀也は、奈緒子に言い寄る男どもに制裁という名の暴力を加えていた。無論、暴力は一正にも及んだであろう。であるならば奈緒子と付き合っているからこそ秀也から狙われていると一正が考えるようになってもおかしくはない。なるほど……。
そして、
秀也からの暴力の中止を奈緒子から訴えて欲しいと願ったかもしれない。そして奈緒子が秀也に訴えた。しかし聞き入れてもらなかったとしたら。そうだ。だとしたら奈緒子は秀也に言っていないのではと一正の中に不信感が募る事もあり得る。
だから、その辺りを秀也から確認をとるという事なのだろう。
無論、僕は素人だから、少々、乱暴な推理なのかもしれない。
それでも充分にも、あり得る可能性だ。
そう考えれば、一正ではなく、秀也に会いに行くといった意味も分かる。外堀から埋めるという言葉の意味もだ。なるほどな。そして灰色探偵ダニットはヒントを出す場合、適当に言っているのではなく適時的確なものをくれているんだと分かった。
そして、
この事件は、まだまだ続くのだと痛いほど理解してしまった。
その上で、本当に僕の体力は最後まで持つのか? と、そんな不安が襲ってきた。
まあ、頑張るしかないのだが。事件を解決する為には、だな。
うむむ。
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