#08 勘違い
「よろしい。確かに受け取りました。では、ヒントの方を……」
とフーがお札を数えてから、また笑む。
ヒントを無駄にしない為にも、いや、むしろ払わされてしまったというイライラ感からか、続く言葉に集中する。その間中もハウとホワイの2人はシンビジウムを愛でていて、まったく、こちらに興味がなさそうだ。まあ、静かでいいのだが。
「これでトラック運転手の証言に嘘はないと証明されました。お次は川村一正さんが奈緒子さんを憎んでいて、すわ殺害したくもなった動機を固めていきましょうか」
フーからの言葉を受けて右眉尻をあげて、いくらか困惑する。
自分なりにも考える。
殺害の動機を固める。
という事は一正に会って奈緒子の話を聞くという事でいいのか。もちろん一正が、ばか正直に憎んでいたと明かしてくれるわけがない。だったら、今し方のダニット一家よろしく、狡猾なる策を張り巡らしてハメるという事でいいのか? うむむ。
というかだ。うむっ。
おお。そう考えたら刑事ドラマなどでのクライマックスな男ではないかとも思う。
そうか。そうなのだ。
ようやくか。ようやくだ。これで終わりか。ああ、良かった。
ここまで長きに渡って事件を追ってきて、遂に解決する時が来たのか。無論、ヒント料もまだ残っている。加えて、この性悪どもとも、お別れする時が近づいている、とそういうわけか。頬が自然と緩み、笑みさえもこぼれる。ハァ、疲れた、と。
オッケーだ。じゃ、一正に会いに行こうか。この手記のエンディングに向かって。
イェーイなんてキャラじゃないからな。遺影と言っておこう。
ごめん。そんなウキウキな気分になる気持ちも分かってくれ。
「フム? 何か楽しそうだ、山口君、いい事がありましたか?」
会話の流れを断ち切って陽気になった僕を見つめてくるフー。
「いえいえ、気にしないで下さい。単なる一人芝居です。ささ、話を続けて下さい」
満面の笑みを浮かべた顔つきで答える。
キモい。
とハウ。
ふふふ。本当に気持ち悪いですわね。黄色いカーネーションが、お似合いですわ。
ホワイの嫌味が続く。
この際、無視だ。無視しておくべきだ。
なぜなら、あと少しでこいつらともおさらばできるのだから。
「フム。よくは分かりませんが、どうやら頭のネジが一本飛んでしまったようですね。まあ、でも今まで色々ありましたから仕方がないといえば仕方がないのですが」
兎も角。
「動機を固める為、野々村秀也さんに会いに行きましょうか。よろしか? 山口君」
OKだ!
川村一正に会いに行くわけだな。うむ。
とフーを見つめて意気揚々とグッと力を込めて親指を立てる。
「先導しますよ。僕のフーレアワゴンについて来て下さい。さあ、行きましょうか」
と、自分の車に駆け寄ってから運転席側のドアに手をかける。
無論、リモコンキーで解錠したワインレッドな、それに……。
なんならば、この時、スキップすらしていたのかもしれない。
だから、
フーは苦笑いという表情で答えてくる。
「本当に分かっていますか。野々村秀也くんに会いに行くのですよ。大丈夫ですか」
と……。
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