#14 低い確率
もちろんトラック運転手の前に姿を見せずに裏で工作をして、脅迫する手もある。
いきなり目の前に現れるという手順を踏み。
脅迫の場合に限ってだ。
それでも縛る為のネタを信じさせるだけの時間は必要になる。
いくら何でも、いきなり目の前に現れた男から強請られても普通の感覚では突っぱねるのが当たり前だろう。突っぱねられた、その上で、なんらかの手段を持って自分は本気なのだと相手に知らしめる必要がある。それが抜けては何もできない。
なにせ、
奈緒子を殺す実行犯に仕立て上げるのだから当然の流れだな。
僕の鼻の穴が膨らんできて、なるほど、などとも独りごちる。
だったらCVさんの言う通りに付き合いは必要になる。いや、それがなければ成立する話ではない。そうか。だからだったのか。あのハウの言葉は。納得した。その上で思うのだが、警察が事件を調べた時点で、彼らに接点は認められなかった。
いや、認められなかった、としか言えない。
僕は、またメモ帳をめくる。人差し指を軽く舌で舐めてから。
ないな。
と、また独りごちて、後ろ頭をかきしだく。
警察だって馬鹿じゃない。彼らに、なんらかでも付き合いがあれば疑いを持つはずだ。しかしながら、僕の耳に、そんな話は入ってきていない。無論、警察関係者が敢えてで隠していたのかもしれない。それでも警察としては事件は事故なわけだ。
だったら、もはや意味のない情報として、僕の耳に入ってきてもおかしくはない。
僕が事件の解決を奈緒子の父親から頼まれた時から耳を澄まし続けていたのにだ。
だからこそ、聞けなかったという事実は警察が一正とトラック運転手に面識はなかったとしている可能性が高い。だったら、よほど上手くやって警察を騙したのか、或いは、やはり、共犯関係ではなかったのか、そのどちらかという事になる。
うむむ。
と考えた時に、タイミングよく返事がある。
一瞬、どこかから見られているのかとさえも感じて、ドキッと一つ心臓が高鳴る。
慌てて、周りを見渡す。
あり得ないと思い直して、文字を目で追う。
>こちらも警察関係者から意見を聞いたのですが、どうやら面識はなかったという意見が大半のようです。そして警察の目を誤魔化す事は難しいと言わざるを得ません。
確かに。僕だって、そこは同感だ。素直に。
>ただ一つの可能性として彼らが共犯関係にあったというものは捨てなくてもいいとは思います。しかし、確率が低いものだと認識して捜査を進めるのがよろしいかと。
なるほどな。もはや何も言えない。唯々、うなずくしかない。
これこそが一服の清涼剤としての正論だな。
間違いなくな。うむっ。
>では、また、なにかありましたら、ご報告させて頂きますね。
ありがとうございます、CVさん。本当に。
感謝します。心底から。
とお礼を言って彼(彼女?)との会話を打ち切る。そして、空を見上げて流れる白い雲を眺めた。さきほど飛び立ったツグミなのだろうか、1匹の冬鳥が、視界の端から端へ斜めに横切った。それを見送ったあと不思議と、大きなため息が漏れた。
なかなか難しいな。推理ってものはさ、と。
そののち、乱暴にも後ろ頭をかきしだいた。
ハハハ。
と……。
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