#13 ドキドキする事

 僕は目を見張り、スマホの画面に表示された文字を目で追う。


 必死に。


>彼は髭さえも剃っていなかった。これは何を意味するのか。……分かりますよね?


 確かにトラック運転手と会った時、彼は汚れた青いジャージの上下で無精髭が痛々しかった。つまり、塞ぎ込んでいたという事だ。もし、カネが手に入って、しかも事故が、過失運転致死傷罪にさえなって不起訴にもなっているとするならば……、


 確かに、不可解過ぎる。


 喜びはしないだろうが、それでも髭くらいは剃って服だって着替えているだろう。


 そこまで手の込んだ演技をしていたのだと言われてしまえば、それで終わってしまう話だが、今の僕にとっては寝耳に水な正論だった。無論、あのトラック運転手がオスカーで賞を獲れるほどの演技派だとは思えない。だから、うなずくしかない。


 さすがはCVさんだと。


 だからこそ、さっき、ハウが、それも見当違いだったりして、と言ったのかとも。


 無論、CVさんは彼らは面識がなかった派であるからこそ至った結論なのだろう。


 僕は、トラックを調べる事も忘れてスマホの画面に食い入る。


 視界の端ではフーたちが、せわしくなくトラックを調べ続けているが放っておき。


 文字を視線で追う事に必死になったがゆえ。


>カネではなく別のもので縛った場合を考えてみると、塞ぎ込んだ理由も見えてくるかもしれません。が、他の理由を考える際に注意しなくてはならない事があります。


 注意しなくてはならない事? なんだろう?


>それは、川村一正さんとトラック運転手の間で、ある程度でも付き合いが必要になるという前提についてです。山口さんは、その辺り、一体どうお考えでしょうか?


 ある程度でも付き合いが必要になる……、それは何故だろう?


 まあ、なんでもかんでもCVさんに聞くのも気がひける。ここは自分で考えてみよう。なぜか。うむむ。まずはカネでなければ、なにで縛れるのか。友情なのか、愛情なのか、それとも逆サイドである脅迫などの類いか。あれ……、ちょっと待て。


 僕は、ポケットからメモ帳を取り出して、今まで書き溜めたメモを改めて見直す。


 ぱらぱらと音が立つほどにメモ帳をめくる。


 なにかヒントになりそうなものはないかと。


 彼らの間に付き合いがあったのか? とだ。


 そうだ。


 友情にしろ、愛情にしろ、脅迫にしろ、そのどれだとしても確かに時間が必要だ。


 友情や愛情は言わずもがな、たとえ脅迫だったとしても事前にトラック運転手の事を調べたり、根回しが必要になる。という事はCVさんの言う通りに、ある程度の長さがある付き合いが必要になってくる。そうか。そういう事か。なるほどな。

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