#12 清涼剤な正論
…――とにかくだ。許可が出たのだ。トラックを調べられる。
苦笑いしながらも、フーの気まぐれで得た手がかりを確実なものにする為、動く。
いや、動こうと思った。
右口角が上がって歪む。
右目さえ閉じてしまう。
動けなかった。止まる。
思考も行動も、全てが。
ここで、ふっと疑問が浮かんできたわけだ。
眉根を寄せてしまい、眉間にしわもできる。
トラックを調べるとしてだ。それはタイヤだとして、なにをどうすればいいのだ?
つまり、
タイヤのなにを見ればいいのかという事だ。
フーが、なにかを踏まなかったかと聞いて、トラック運転手は、なにも踏まなかったと応えた。なにも踏まなかったのだから、なにも残っていないのが当然だろう。という事は、なんの跡もないタイヤが在るという事実を確認すればいいのだろうか?
そんな事をして、何の意味があるのだろう。
更に眉根が寄ってしまい、しわが深くなる。
分からないが、動けないに変わったわけだ。
そんな僕を放っておくかのようフーが言う。
「よろしい。ともかくトラックを調べるのですね。ハウ、ホワイ、散開して下さい」
彼女らに目配せをしてから、フーもトラックに近寄ってゆく。
タイヤの観察を始める。そして、どうやらハウが後部の荷台でホワイが側面を担当しているようで、申し合わせたようにトラックの各部を事細かに精査し始める。言うまでもないが、僕は、ただ一人、ぽつんとおいてけぼりで。なんだか、悲しくて。
慌ててタイヤに近寄る。
この後に及んでも何も教えてくれないなんて人が悪いなと意味のない事を考えて。
そこで、再びスマホが小さく鳴って、もしかしてと心が躍る。
おおっ。
やっぱり、CVさんだ。
やはりというか、もはやというべきなのか、灰色探偵の面々と話していると疲れがどっと加速度的に蓄積される。だからこそ一服の清涼剤としての正論を聞きたいと願ってしまうのだ。その正論を与えてくれるのが、四つ葉のCVさんなわけだ。
なんだろう。ふむふむ。
>一つ聞きたいのですが。
あれッ?
珍しい、CVさんから質問だ。なんだろう?
>山口さんは、川村一正さんとトラック運転手と共犯関係にあると、お考えですか?
ああ、その事か。確かに、そう考えたけど。
無論、一つの可能性として、あり得るというレベルなのだが。
その旨を丁寧に四つ葉のCVさんに応えて彼(彼女?)からの返事を静かに待つ。
>そうですか。ただ、思うのですが、彼らが共犯関係にあったとは考えられないのです。仮に、彼らが共犯関係に在った場合、それはカネで繋がると考えられます。
うん。それは僕も同じだ。それ以外に、どんな風に繋がるのか、分からないから。
>しかしながらカネで繋がっているならばトラック運転手が塞ぎ込んでいたのが不可解なのです。それは確かに演技の可能性もあります。それでも聞いた限りでは……。
ああ、そうか。そうだ。
なるほど。盲点だった。
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