#05 無為な思惟

 …――また一つの可能性に行き当たった。


 フーが2人を交互に見つめて微笑んでいる時に、ふっと。


 七三にわけた髪にソッと触れてから静かに前を見据える。


 つまり、


 ホワイの言葉を聞いて思ったのだ。思ってしまったのだ。


『答えは、もう出ていますのに。いつも思うのですが、解を掴んでから、その解に沢山の風船を付けて空に放つのはヤマケンさんの悪い癖ですわ。でも、それも……』


 というやつを聞いてだ。


 風船だと。どこかだッ!


 とばかり、どうでもいいと悔し紛れに記憶の片隅に捨ててしまおうと思った時に、


 答えはもう出ているのだと言われたと気づいた。それは何かと考えると理解した。


 その後のハウちゃん大躍進の巻は、この際、無視したが。


 うむむ。


 瞳に力を込め口を真一文字に結び、思う。


 とにかく、気づいた事、それは一正とトラック運転手には面識があった、それどころか共犯者であったのかもしれないという事。フーの推理が正しく犯人が一正に固定されれば、その可能性は大きくなる。ただCVさんの推理を無視する事になる。


 CVさんの話を無碍にしてしまうのは、正直、心苦しい。


 無論、確認するまでもないが、いまだ一正が犯人だとは僕自身も考えてはいない。


 それでも、一正が犯人で奈緒子を確実に殺したいのならば……、こうとも思える。


 一正が、


 トラック運転手と繋がる必要性が少なからずも生まれる。


 一正が、何らかのトリックを駆使して奈緒子を追い込んだとして、そののち、とどめをトラック運転手に実行させるとする。すると彼らは面識があって、それどころか何かしらの約束を交わしていたとも思えるのだ。仮にで、であるならばなのだが、


 一正に事情聴取をした際、トラック運転手の話題が出なかったのは、敢えてでだ。


 敢えて、


 とぼけて知らないふりをした、とも考えられる。自分たちが繋がっていると知られれば不利益を被るから。無論、トラック運転手の方も、また同じ理由でとぼけた。しかし、これらの考察は仮定の域をでない。むしろ、間違っているのかもしれない。


 だが、一つの重要なファクトとして、頭の片隅にでも遺しておくべきとも考える。


 ふむむ。


 今度の推理は、先のとは違い、とても的を射たものではないのかと考えてしまう。


 何だか、ものほんの探偵っぽいぞ、僕よ。


 と……。


 この手記を書いている今にして思う。ほんの数秒の間で、落ち込んだり、調子に乗ったりと、ころころと気分が変われる僕は実は感情の起伏が激しい人間なのだろうかとだ。だからこそだったのだろう。この後、僕は覚悟を決める儀式を行った。


 端から見て、どうだっていいと思える行動にでるわけだ。


 だが、今は調子に乗り続けてアホな事すら考えてしまう。


 もしかして今の僕は、もの凄く格好いいんじゃないのか?


 フフフ。


 いいぞ。


 いいぞ。


 僕よッ!


 と……。


 自信満々な目つきで顎に手を添えてみる。


「……なんだか、顔がエロい、ケンダマン」


 とハウは両目を細めてから呆れがちに僕を見つめてくる。


「とアホな発言は放っておいて、さっさと次の行動へと移りましょう。それとも、また手が無くて困っておいでなのですか。ともすればヒントの請求なのでしょうか?」


 ホワイも両目を細めて呆れがちに視線を突き刺してくる。


 うっさいわ。せっかく自己満足的でも悦に入っていたのに邪魔をするな。クソッ!


 とはいえど……、そうだな。ホワイの言う事は一理ある。

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