Chapter12 運送会社にて
#01 殺意の波動
12月20日 午後2時16分。
…――まあ、あれだ。またやられたわけだ。
弄ばれてしまったわけだ。ものの見事にな。
本当にトホホだな。
一体、なんの話か。
思い出しても悔しいので、要点だけまとめて、簡単に記しておこう。
結論から言えば、元同僚などというワードに惑わされた僕が、その元同僚にコテンパンにやられたわけだ。それを背に隠れて観察して笑っていたのが、ダニット一家だったという感じだな。ものの見事に騙されて、ぐうの音も出なかった僕をだ。
そうだ。
実のところ元同僚など、今回の事件に、なんの関係もなかったのだ。
無駄とも思える聞き込みをさせられてしまった。やつらによってな。
それが明かされた時には、どんな顔をすればいいか困ったくらいだ。
アハハと笑うハウ嬢とホホホと片仮名で笑うホワイ嬢を殺したくなったくらいだ。
つまり、
敢えて、それらしく元同僚がこの近くに住んでると言っただけの話。元同僚というワードはフェイク。二択だと勘違いさせてから無駄な聞き込みをさせる為の布石だったわけだ。本来ならば二択などではなく勤めていた会社に行くだけで良かった。
しかも、
元同僚は、どこまでいっても、元同僚だという関係でしかなかった。
あのおっさんとは、もう関わりたくないのだといった態度がありありと分かった。
だからこそ聞き込みは徒労に終わり、それどころか、元同僚の非協力的な態度によって僕はズタボロになった。流行の異世界風味で言うならばMPが0になってしまったわけだ。その後、やつらは何と言ったと思う? 信じられない事を言い放った。
アホかッ! と怒りだしても良かったくらいに思う。今、考えると。
「よろしい。山口君」
とフーにこう言われた時は、また助けてくれるのかと少しだけ嬉しくもなったよ。
しかし、
意味ありげに黒いハットのつばを右手で触り、少しだけ下げ続ける。
こういう風に、な。
「元同僚さんは、捜査に一切関係ないのですが、よく頑張りましたね。まあ、聞く事もないのに無理に会話を続けようとする君の姿勢が芸術作品にも見えましたよ」
フムッ!
「よろしい。では、余興と寄り道は、この辺にして、本来の目的地である勤めていた会社に行きましょうか。わたくしどもが先導致しますのでついて下さい。山口君」
と……。
芸術作品とは、つまり、エンタメと、ほど遠い、分かる人にしか分からないもの。
要するにフーたちにとっては極上の娯楽ではあったが、端から見れば滑稽でしかなかったと言いたかったのだろう。しかも、余興だとか、寄り道だとか言われてしまって顔が真っ赤になって頭に血が上ったのは言うまでもない。さすがはダニットだ。
生まれて、この時ほど、殺意という感情が昂ぶった事はなかったな。
いや、正直、殺意の波動が、溢れて漏れ出たのは、これで2回目なわけなのだが。
その2回の内、2番目に殺したいという気持ちが高まったというのが正確だろう。
と殺意の話など、どうでもいい。
今はな。
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