#08 それ以外?

 フムッ!


「よろしい。ここでの情報は出揃いました。お膳立ては済ませましたので、また山口君に捜査指揮権を握ってもらいましょうか。では、これから、どういたします?」


 やっぱりそうなるよな。


 さて、どうしたもんか。


 よしッ。一旦、今、得た情報をまとめよう。


 今は、まだ詳細を聞かされていないが、あのおっさんの元同僚が近くに住んでいるという事と勤めていた会社が分かった。そして、これが一番重要なのだが、おっさんが奈緒子を轢いた日、トラックで、なにも轢いて〔踏んで〕いなかったという事。


 ふうむ。


 と、僕は右眉尻をくくくっと下げて考える。


 視線を右上へと投げてみる。はてさて……。


 これらの要素が繋がる絵は描けない。しかし、これからやるべき事だけは分かる。


 せっかく得た情報を生かすのならば、この二択しかない。元同僚が近くに住んでいるのだから元同僚に話を聞く。或いは勤めていた会社に赴き、話を聞く。だろう。さて、では、どちらが、より正解に近いのかとも考えてみるが、それは分からない。


 まあ、でも二択しかないのならば、どちらから出向いてみても結果は同じだろう。


 どちらにしろ、その2カ所には、赴く事となるのであろうから……。


 などという考えは甘々なショートケーキかモンブランだったのだが。


 無論、この後、また僕は、この性悪探偵に弄ばれる事となるわけだ。


「うん。決めた。じゃ、まずは元同僚の家に話を聞きにいきましょうか。勤めていた会社に行くのは、それからでも遅くないです。それでいいですか、フーさん?」


「フム。本当に、それでよろしいのですか?」


 とだけ言って佇むフー。


「えっ? それじゃダメなんですか、なぜ?」


 と僕は慌ててしまう。ダメなわけがないと。


 今、考えた二択以外にも、何かがあるのか?


 なにかを見落としたのか、僕は? なにを?


 いくらか混乱してくる。


「いえいえ。ダメとは言っておりませんよ。ただ、本当にソレでいいのか確認したまでです。捜査を合理的に進める必要性もありませんからね。フム。実に興味深い」


 と気になるような事を言いつつ、また例によって、温かく微笑んだ。


 気になる。気になるぞ、その言い方は。もう嫌だ。いつも、いつも、この調子だ。


 くうッ!


 でも、そう言われてしまっては……、もはや元同僚の家に行くしか道は無かった。


 というか、あの酔狂な助力に、何の見返りも求めなかったのは嬉しかったのだが。


 はふぅ。

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