#04 性悪の極み

 フムッ!


「110など、どうでもいいのです。そんな事よりも、事件当夜、トラックでなにかを踏みませんでしたか? なんでも良いのです。なにかを踏みませんでしたか?」


 おいおい、その強気な姿勢は、一体、どんな自信から来てるんだ?


 警察24時に主演で出演される暴走族くん達よりも豪毅過ぎるぞ。


 てか、僕の股間が、凶器準備集合罪に引っかかるかもなんだぞッ!


 今のボインなバインな状況は。


 まあ、でも1人なんだけども。


 いやいや、そんな下らない事はどうでもいい。それよりも、なにかを踏みませんでたしかを2回言ったぞ。それだけ重要なのか。それは、あのパチンコ玉の事なのか? 彼が、事件当夜、トラックで、あのパチンコ玉を踏まなかったかどうか、と。


 いきなり質問を浴びせられ、条件反射なのか、彼は応えてしまう。


 まんまと思惑にのってしまい。


「踏むだと? なにも踏んでねぇよ。強いて言えば、女を踏んだ。……あの女をな」


 続きを待つフー。


 しめしめと……。


 性悪全開パワー。


 チャラチャラ、へっちゃらだ。


 アハハ。警察なんてへっちゃらだいッってか?


 でもな。


 遂に、聞きたい事を聞き出した、この悪党は。


 彼は、思いあまっているのか、言葉を続ける。


「でも俺は悪くねぇ。あんな所に寝てるアイツが悪いんだ。あんな所に寝てるなんて誰が予想できる? しかも時雨れてる夜にだ。寝てるって分かる方が変だろうが?」


 フーは、彼の質問には応えず、会話を続ける。


「フム。よろしい。なにも踏んでいないのですね。それに間違いはないのですね?」


 僕も、あの時、悪鬼羅刹になったけどフーは生まれながらにして悪鬼羅刹だった。


 推理というものに対しての鬼。


 知りたい事だけ知れればいいとも考えている。


 彼は、その思惑に、まんまと乗せられて踊る。


「だから踏んでねぇって。てか、帰ってくれよ。本当に頼むからさ。あんたらのしつこさには、もう、ほとほとお手上げだ。110も、まだしてねぇから帰れって」


 あれっ?


 待って。今、110は、してないって言った?


 110したってのは、単なる脅しだったのか?


 フーの横顔をみる。右口角が微かに上がっている。顔には陰影も背負っている。分かっててやってたのか。やりやがったな。この人でなしがッ! 今のフーを表現する為には悪鬼羅刹ですら生ぬるい。的確に言い表す言葉が見つからないくらいだ。


 何というか、敵に回すとやっかいこの上ない。


 まあ、でも推理ゲームでは敵なわけなのだが。


 だからなのか、ゾゾッと背筋に冷たいモノが顕れ、蠢き回って駆け抜けていった。空では風が流れて雲がせわしなく動く。風がダニット一家で、雲が僕や彼のような気がしてきた。翻弄されていると……。フーが、爽やかに笑う。嗤う。静かに。


 まあ、こんなものでしょうか。


 フムッ!


「分かりました。では、帰らせて頂きます。お時間を取らせてしまい申し訳ありませんでした。ご協力、ありがとうございます。無罪は必ず立証させて頂きますので」


 と言ったあと、きびすを返してからヴィアッド500へと向かう。


 そこに揚々と口笛でリズムを取って消えていたハウが帰ってくる。


「パパ。ばっちり。さすがハウちゃんだわさ。この近くに元同僚が住んでるみたい。勤めていた会社も分かったよ。給料明細書から確認済み。多分、最後のやつだね」


 と、豪快にも笑いつつ言った。


 まだ、なにかあったのか……。


 もはや何も言うまいと思った。

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