#05 教示に繋がる矜持

 …――むやみやたらにヒントを貰いたくない。


 今の僕は、そう考えている。


 最終的には気分を害されたが、言うまでもなく推理ゲームでの先手を取れた事で気分が良くなっていたのも関係している。自分でも、やればできるんだという思考というか、自信が、湧いてきていた。大丈夫、僕にだってできるんだ、と。


 そして、


 この先も捜査の主導は僕なのであろうからこそ、まずは自分で考えようと思った。


 ヒントを貰うのは自分で考えて詰まってからでも遅くはないと。


 なんだか、乗せられているような気もするが、気のせいだろう。


 ヴィアッド500の横に立ち、蒼く拡がる空を静かに見上げる。


 静まりかえった空では、白い雲が、そろりと流れて太陽を隠す。


「フムッ」


 とフーが目を細めて微笑む。


 顎を撫でてから目を閉じる。


「良い傾向ですね。まずは自分で考える事が進化へと繋がります」


「って言っても、類人猿が火を使い始めるよりも小さな進化だけども。まあ、良くてガラケーがガラホになって生き残りをかけてる位かな。分かりにくいけど、ご容赦」


 とハウが茶々を入れるが無視、無視、スルー。


 てか、ガラホって、なんだ?


 ああ、気にするな。気にしたら負けだぞ、僕。


 どうでもいい事で、気になる言い方で気にさせてくるのは、さすがは、ハウだな。


 兎に角、


 川村一正がトリックに使われたパチンコ玉を買った店までは来た。そして、ここで玉を買った事も分かった。では、次の一手はとなる。しかし、手の中には、この先の捜査をどう進めればいいのかという指針さえない。さあ、何から手を付けるか。


 うぬぬ。


 パチンコ玉は現場から500mほど手前に戻った場所へと無造作にまかれていた。


 仮にだが、あのパチンコ玉が殺人事件と関係がないとする。その上で犯人がまいたものではなかったと結論づけられるのか。脳内で電気信号が素早く動き、答えをあぶり出す。あり得ないという言葉が、まぶしいほどのスパークと共に脳裏に浮かぶ。


 うん。そうだな。なるほど。


 端的にいってしまえば、わざわざ買った玉を、まく意味がない。


 先ほど訪れたセブンを見れば分かるよう、パチンコ玉を売る店は業者相手の商売であり、一般客は、ほとんど訪れないのが実情。であるならば、一般客が、苦労して店を探し出し、わざわざ買ったものを、無為にまく事に意味が在るのかという話だ。


 ない。断じてない。あり得ない。間違いない。

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