#04 真の意味
「知りたい事は、ほぼ全て網羅してしますね。なかなか捜査能力ですよ」
あれ、褒められたぞ。
更に嬉しくなり思わず右口角が上がる。
「まあ、でも、それも、ありがたいお言葉〔ヒント〕が在ったからの手柄なんだけどね。でしょ? ケンダマン。何を聞けばいいかなんて考えてなかったっしょ?」
むむむ。
それはハウの言うとおりで間違いない。
あの出前予約での5万円が今回の聞き込みに生きてきた事は疑いようのない事実だ。ここ〔パチンコ玉を売るお店〕に来る前、運転中にハウからスマホに着信があり、これを聞いておけという指示を受けていたからこその今し方のフーの言葉なのだ。
でもな。
それでもな。僕は僕なりにも頑張ったんだ。それだけは認めて欲しい。
「フフフ。そんなに肩肘を張らないで下さい。今回は本当に頑張ったと思いますよ」
山口君は。それは、このわたくしが、保証しますからね。
うぬぬ。なんとなくだが釈然としない。
でも、どうやら今回のゲームでの勝利は、と言えるのかは、どうにも不明瞭だが、とにかく僕の頭上に勝利は輝いたようだ。無論、殺人事件を愉しんでいるようにも思える心持ちは不謹慎だと言われてしまえば何も言い返せない。閉口するしかない。
無論、批判を甘んじて受けるしかない。
それでもやったのだ。やり遂げたのだ。
素人でありながらも捜査を滞りなく無事にこなしたのだ。
ううん?
今だからなのか、一つ、思い出したぞ。
推理ゲームが始まる前に、ホワイが神妙な顔で、こう言っていた事を。
『不遜だぞって顔をしていますわ。オレンジのユリと言っておきましょうか。少なくとも私達は、事件を前に、依頼者を前に、いつでも真摯な心で向き合っています』
と……。
ともすればだが、あの発言の真意が分かったかもだ……。
つまり、
今、僕が感じた達成感に似たものを愉しみたい。達成感を感じる依頼者を見て愉しみたい。愉しみたいからこそ推理ゲームは真摯で真剣に興じる。そこにこそ愉しみが在る。だから事件を前に、依頼者を前に、いつでも真摯な心で向き合っている。
あの時、
多分だけども、そう言いたかったんじゃないんだろうか?
だからこそ事件を愉しむ代わりに真剣に事件に向き合う。
うむむ。
まあ、それこそ真の意味での真意は今は眠り姫のホワイにしか分からないのだが。
というか、どちらにしろ今は気分がいい。それだけは偽ってはいけない気がした。
いくらか開いた間を埋めるように静かに言葉を吐くフー。
さてと。
「これだけは先に言っておきましょうか」
はふぅ。なんだ? と顔をしかめる僕。
せっかくの良い気分が台無しなってしまうような事を言われそうな気がして……。
「これで犯人は川村一正くんだと確定致しました。灰色領域が一つ消え去りました。これから先は一正くんが殺したのだという事を念頭において捜査を進めて下さい」
うむむ。
「それが解決への近道ですから。フムッ」
まあ、何となくだが、勝ち誇っているようにも聞こえる。
やっぱり、良い気分が台無しだ。僕は、いまだに犯人は、川村一正なのか、野々村秀也なのか、迷っている。それは、たとえ一正がパチンコ玉を買ったという事実が在っても揺らがない。いや、迷っているのに、揺らがないとは、表現がちぐはぐだ。
それでも雰囲気で何となく察してくれ。
ともかく、未だ一正が殺したのだとは信じられないのだ。
無論、秀也とて犯人とは考えられない。
その迷いを見抜かれているような……、そんな気になる。
つまり、
フー側から言わせれば、じゃ、誰が森本奈緒子を殺したのだという話にもなる。それは分からないとしか答えられない。しかし、あの2人は、どうにも僕が想像する犯人像とは合致しないのだ。とはいえ、僕の推理など……、素人の手習いなのだが。
と不甲斐なくもそう思ってしまい、何も言えなくなった。
ともかく、今回は何とか上手くいった。
しかし、
この次も上手くいくのかと問われればそれも分からない。
分からないからこそ、ゆっくりと眠れないわけなのだが。
はてさて、今、助手席で熟睡するホワイのように眠れるのは一体いつになるのか?
「ふみゅ。アオキですわ。初志貫徹……」
と、ホワイが、また寝言で言い放った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます